1.『アナザー・モーニング』


  レースのカーテンから溢れる柔らかな光のライン、それが白を基調とした部屋の中に降り注ぎ、コケティッシュなヌイグルミや動物型の可愛らしいクッションを照らす。
『ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ!!!! さぁ、三六さん。お兄ちゃんの胸にその華奢な体を飛び込ませなさい。天使のようにあどけない瞳も、薄い唇も、美しくも艶やかな黒髪も、お兄ちゃんが全て抱きしめてさしあげましょう!!』
 卵形の目ざまし時計からリピートされる声、それを毛布から伸びた手が止めた。 頭の中がぐしゃぐしゃのルービックキューブのようで落ち着かない。
定まらない思考を一つ一つ直しながら、寝ぼけたままの三六がゆっくりと瞳を開ける。
 そして、ゆっくりと首を動かし隣を見ると――。
「おはようございます。三六さん、最近思ったのです」
 死村三六(しむらみろく)。華奢で小柄な十六歳。公立高校生女子。一人称、ボク、文芸部所属、その隣には――。
「三六さんは私のことを兄さんと呼びますがそれではあまりにも味気ないと思うのです」
 三六にピッタリと寄り添うように――。
「お兄ちゃん……。嗚呼、この響きの持つ素晴らしさが分かりますか? 私は三六さんからそう呼ばれるたびに背筋にゾクゾクとした物が走るのです」
 年頃になれば悩みの一つもある乙女と同じ布団の中に――。
「三六さん知ってますか? お兄ちゃんという言葉には由緒正しい歴史があり、その昔、種子島に伝えられたのは鉄砲ではなくお兄ちゃんという言葉なのです。かの有名な徳川家康もこう言っています……呼ばぬなら、呼ばせてみせよう、お兄ちゃん」
 変態がいた。いつものことだった。
「黙れ!! ボケ!!」
 不如帰が囀るような甲高い声が朝から響く。
 三六の白い足が、死村十四(しむらじゅうし)を全力で布団の中から蹴りだすと、十四のスラッとした体躯が三六のベッドから転がり落ちた。
 寝巻きの浴衣姿ということは昨日の夜から忍び込んでいたのだろうか――。
 ジッと見つめる三六に気づき十四が満面の笑みを浮かべる。
 憂いを帯びた切れ長の双眸に柔らかな唇、端正な顔立ちと際立たせる長い黒髪も鮮やかで――美形と呼ばれても何等遜色のない顔立ちなのだが――。
「ああ……朝から妹の足蹴にされる兄の幸せ……これでこそ忍び込んだ甲斐があるというものです」
 ――そういう人間だ。
 蹴られて尚、その端正な表情は至極幸せそうだった。
 一人目の変態兄、死村十四。大学生。
 妹である三六でさえ容姿端麗だと思う。
 文学少女である三六が最近読んだ詩集の中にこういう言葉があった。
『この赤い花は二つの罪を犯している。それは私に美しいと思わせたこと、愛させたこと。つまり美しいことはそれだけで罪なのだ』
 哲学者エソントの詩――もし、その言葉の通りなら十四の美しさは罪なのかもしれない。いや、変態と言う時点で大重罪なのだがと三六は思考する。
持って生まれた物と人間の方向性が重ならないのは世の常だ。十四には自分の容姿を最大限にいかすという考えはなく、無理矢理妹の布団に侵入したり、風呂に乱入する方が大事だと明言している。
「兄さん、あのですね、ボクのベッドに勝手に入らないでください!!」
 三六は側頭部の癖毛を直しながら口を尖らせた。
「勝手に入っていません。ちゃんと耳元で囁きましたよ……。優しく、甘く、入りますよ……?いいですか、とね」
 甘い、蕩けるような十四の声。三六の背筋にゾクリとした感覚が走る。
 まるで耳元でソッと吐息を吹かれるような感覚。
 きっと、三六以外の女の子がその声を聞けばあっさりとドアを開けていただろう。免疫があって良かったと心底、三六は思う。
「寝てる間に言っても意味ないですよ!! だいたいが錠前をつけたはずです!!」
 スッと十四がなんの気もなく『ドロドロに溶けて固まった』錠前を見せた。
 さもそれが当然のように。三六がそれを手にするとまるでゴムの塊のような弾力があった。
「私の愛はこの程度では束縛できないですよ?」
「またそういうことに無駄な『力』を……。いいですか、今後はボクの了承を得てからそういうことしてください」
 と言いつつも、何があろうと絶対に了承しないとは心に誓っていた。
「そうですね、分かりました……」
 瞳に寂しさをよぎらせ、十四が起き上がる。
 それはどこか遠くを見つめるような瞳だった。思わず三六の胸の奥がキュッと締め付けられた。もしかしたら本当は寂しいだけで少しはしゃいだだけだったのではないだろうか――と。
「兄さん……」
 少し躊躇いながらそれを見つめる三六の呟きの後、フッと十四が笑った。
「では、一緒に朝風呂に」
「……底なし沼に素潜りさせますよ?」
 その時は他の変態兄達も一緒に沈めてしまおうと三六は思考する。
 もっとも十四達にはそれぐらいでは『効果がない』ことを知っているが――。
「うあ! 兄貴!! 肉じゃがとカレーを混ぜるなよ!!」
 キッチンから弟、死村十五(しむらじゅうご)のボーイソプラノが響く。
 三六は昨夜の残りの肉じゃが冷蔵庫に残っていたのを思い出した。手を加え、弁当に使おうと取って置いたものだ。
 カレーと肉じゃがを混ぜる暴挙に出るのは多分――もう一人の変態、一三(かずみ)しかいない。
「たはは。俺のレパートリーって言ったら、カレー、肉じゃが、肉じゃがカレーだからな」
「最後はミクスチャー!?」
「たは。まぁ、胃の中に入れば同じだ、栄養あるぜぇ。たっぷりと食おうな。なんならお兄ちゃんが口移しでだな――」
「いいから入れるなっ!! 姉貴!! 早く起きて!! 姉貴!!」
 十五の絹を裂く悲痛な叫び声――。
 思わず頭を抑えつつ、時計を見れば時間は七時――。
 早く兄たちのお弁当と朝食を作らなければ学校に遅刻してしまう。十四は大学があるし、一三だって仕事がある。いや、一三はハローワーク通いのプータローだった。プーのくせに一人前以上に食べる。十五も小学生ながら一人前以上食べる。死村家の財政を圧迫する大飯ぐらい達の弁当は時間がかかる為、手早く作らねばならない。
「兄さん、着替えるから出てもらっていいですか? 先に言いますが手伝うとか一緒に着替えるとか言ったら蜂の巣にしてプーさんへの貢物にしますから」
自分で言っておいてなんだが、熊のプーさんだってさすがにそれは遠慮するかもしれないと思った。少し残念そうに十四は部屋から出て行く。
「そうそう、三六さん。お爺様から伝達がありました」
 部屋を出ようとした十四がドアノブに手をかけ止まった。
「兄さん、宗主って呼ばないとうるさいですよ……またアレですか?」
 三六は宗主からの伝達を想像しつつ嘆息した。
「はい。察しの通り。放課後、説明するから本家に来て欲しいそうです」
 宗主――死村一族の長にして曾祖父。
 偏屈で変わり者だが、誕生日プレゼントは必ず贈る豆な面もある男。死村の変態たちを束ねる変態の元締めでもある。趣味はゲーム開発。今度は老人をターゲットにした孫ゲーを作ると言ってはばからない。常人に近い三六にはその思考は理解しがたい。
死村家の変態達の中にあって、三六は最もノーマルで一般的な常識を持っている。故に、時々、自分の立ち位置に溜息が出てしまうことがあった。
それはテーィンエイジャーが自分とは何かと思い悩むのとほぼ同質だ。
「あの、兄さん。ボク……」
少しだけ弱々しい声で三六は呟き、
「普通の高校生女子じゃダメですか?」
 上目遣いに十四を見つめた。
 それに対し、十四はいつも通り微笑を浮べる。
「十分普通じゃないですか」
「全然、普通じゃないです」
十四は尖ったあご先を触りながら何かを考え込むような仕草を見せる。
「普通、普通、普通ですか。私も三六さんぐらいの頃にそう思いましたね……」
「兄さんもですか?」
 少しだけ驚いた三六に十四がフッと笑い頷く。
「ええ。普通がどういうものか、自分は何をするべきなのか……誰にだって躓くこともあります」
「兄さんにもそういう時期があったんですね」
「私だって一応は人の子ですからね。三六さん、そういう時は立ち止まってじっくりと考えてください」
「兄さん……」
キュッと三六は自分のパジャマの胸元を握る。
ほんのちょっとだけ――三六は兄のことを見直していた。
「自分の生き方を決めるのは三六さんですよ。自分の進む道をじっくりと考えて、もし悩んで疲れたら僕たち兄弟に頼ってください。死村は家族と忠義を裏切りませんから」
 優しい微笑み――。
 時折見せるその表情――それは三六を安堵させるには十分な効果があった。心がポワポワとして落ち着いてくる。それは暗い夜道を誰かが一緒に歩いてくれる時や、自分だけじゃないという安心感に似ていた。
「多分、答えはもう三六さんの中にあると思いますけどね。あまり仕事のことで悩まないでくださいね」
 十四はそう言うと妙にあっさり部屋から出て行く。
 もしかしたら三六が宗主に呼ばれたことを気にしてくれてるのかもしれない。意外と十四はそういうナイーブな面があり、さりげなく家族を気遣う。
「……家族ですか」
 呟きながら三六はパジャマの前ボタンに手をかける。
 普通であること――最近になりそのことを考える。
 普通に家族と食事をして団欒する幸せ――から少しだけ死村家は外れてる。
 大人になって視野が広がるほどに三六はそれを感じるようになった。
 自分の居る場所が常識の世界ではなく、暗く淀んだ未来もない闇の中のような気がして不安になってくる。死村家を離れた世界が輝いて見える度にその気持ちが強くなる。
 周囲と自分の環境のギャップや普通ではないこと、それが少しだけ苦しく感じるようにもなった。
 自分が異端者だと思い知らされる度に、くすぶる何かが胸の奥でチリチリと音をたて、仕事をやるのが嫌で仕方がなくなってくる。それでも三六は死村家の一員という思いから仕事に向かう。
ここ最近はそういうジレンマが特に酷く、グルグル、グルグル、メリーゴーランドのように回り続けていた。そういう時は愛らしい弟の十五を抱きしめて癒されているのだが胸の傷は広がっていくばかりだった。
「三六さん……」
 ドアの向こうから聞こえる十四の声――。
「兄さん、ボク……」
いっそ、今の気持ち全てを吐き出してしまおうかと思った。そうすれば楽になれるかもしれない。十四はそのことに何と言うだろうか?
「日記に連載小説とか書くのはどうかと思いますよ」
 三六は激しく後悔しながらも、こめかみに青筋を走らせた満面の笑みで答える。
「兄さん、貴方に読まれた日記帳で血反吐吐くまでブン殴っていいですか?」
 こうして、いつも通りに死村家にとって『普通』の日常が始まった。



2.

 朝食を作る前に三六は風呂場に向かう。
 死村家の風呂場の広さは祖父が孫や娘と入りたいという強い欲望を表しているかのごとく広い。もちろん、その願いは叶うこともなく祖父や兄達は広い風呂場に一人ポツンと湯を浴びている。もちろん、三六は可愛い弟や妹と一緒だ。もちろん今日も朝のシャワーを浴びるなら十五と一緒が良かったが寝坊してしまったので仕方ない。実に残念なことに一人で入らなければならない。
 着ていた衣服を脱いで風呂場に入り、シャワーの蛇口をめいっぱい捻った。
 砂礫の大地に水が染込むように、三六の皮膚が、細胞が、降り注ぐ湯の雫を吸収する。結んでいた手の平をほどき見つめると、うっすらと纏っていた何かがゆっくりと剥がれ落ちていく感覚がした。
 それは流れ出す熱いシャワーの飛沫が、寝ぼけていた意識を呼び覚ましてくれたからかもしれない。
 普通の人間はシャワーを浴びた時に何を考えるだろう――と曇った鏡を指先で拭いながら考えるが、鏡の向こうの華奢で貧相な体つきの三六に尋ねても答えは返ってこなかった。
 シャワーを出た後、真っ白な制服に着替え、ドライヤーで乾かした髪を後ろで束ねる。テキパキと身支度をこなし、これからとりかかるのが朝食の準備だった。
 納豆、サラダ、白米、味噌汁。それが死村家の朝食スタンダードメニュー。
 それを用意するのは死村家でまともに料理できる数少ない人材の三六(みろく)だった。
 早速、『一日一殺、見的必殺、わが生涯一片の悔いなし』と書かれたエプロンを纏い朝食の準備を始める。
 三六は食器を用意しながら、居間からの音楽に耳を傾けた。
 流れる英語の歌詞と緩やかなメロディが朝のキッチンを満たしてくれている。
 曲はレッド・ホット・チリペッパーズの『Under The Bridge』。音楽には少しうるさい死村家の間でも人気のあるナンバーだ。はっきりと言えば、それは洋楽ということもありパブリックではないし、流行のベクトルがあるとすれば、そこからは著しく逸脱している。三六のような女子高生が好んで聞く曲ではない。
 三六だって最近の女子高生であり、アイドルや流行のミュージシャンに多少は興味があり、ひいきにしてるロックバンドもある。だがそれよりもブリティッシュロックやオルタナミュージックの方が好きだった。
 外はねしたくせ髪の毛が、包丁が、リズムを刻む。。
 素早い手首の動きから繰り出される刃が、必殺の命中率を持って野菜を切り刻む。
 その手つきには迷いなどない。寸分の狂いなくリズムを途切れさせることなくキャベツがキュウリが切裂かれ宙を舞う。
 サラダ、味噌汁が素早く作られていく。
「♪」
 三六はその大きな瞳で、満足げに鍋を見つめた。
 鍋からは味噌汁の食欲をそそる香りが漂っている。
 切り刻んだネギを味噌汁の上に散りばめ、味噌汁の完成だ。
 指先でおたまをくるりと回転させると、並べてあった御椀に素早くよそっていく、その迷いのない動きと手つき。幼い頃から家事が培ったものであり、三六は器用さだけだったら死村の中でもトップレベルだった。
 三六はリズミカルに、テキパキと朝食の準備を進め、おぼんに乗せた御飯と味噌汁を手に居間へ入ると既に一三と十四、十五は揃っていた。卓袱台の上にはフラスコのついたサイフォン。水蒸気の圧力を利用したサイフォンはプロセスが楽しめるのが魅力だ。ドリップ式に比べると操作がやや複雑だが、粉を易しくかき混ぜ、火をはずすタイミングさえ守ればおいしい珈琲が入れられる。
 『珈琲に砂糖という者がいるがそいつぁ、素人の意見だぜ』と珈琲好きの一三が語ったことがある。以来、サイフォンの横にはザラメの小瓶を置かれ、珈琲にザラメを使う。ザラメは珈琲の風味を損なわず、入れた後でもかき混ぜ具合で味を調節できるからだ。
 既に出来上がった珈琲を十五がティーカップに注ぐと、居間には『月曜の朝の憂鬱な心』を満たす香ばしい匂いが満ちていく。
「おお、おはようさン。三六」
十四の双子の兄、一三はリィーデンググラスをかけ新聞を呼んでいたが、三六に気づき『たはは』と笑う。
 いつも通りのくしゃくしゃの黒髪と着崩したシャツとゆるゆるのネクタイ。それが一三にだらしない印象を与え、サラリーマンであれば即刻上司にどやされてもおかしくはない風体だった。
 それなのに、不思議と格好悪さを感じさせないのは、一三の長い手足とスラリとした長身、双眸や端正な顔立ちに宿るシャ−プな切れ味のせいでもある。
 そんな一三と良く似ているのが弟でまだ小学生の十五だった。三六の可愛い、可愛い弟だ。
「おはよう姉ちゃん!!」
 子供らしい元気一杯の声。
 三六は思わず抱きしめたくなったがぐっとこらえる。ここで押し倒してしまえば兄達と同じになってしまう――本人は気づいていないが既にブラコンと貧乳という死村家の悲しい宿命は三六を蝕んでいた。
「おはよう御座います、一三兄さん、十五君」
 ちょこんと三六が一三の横に座ると、十五がステレオのスイッチを切り、テレビのリモコンを押す。朝食の時はニュースと言うのが死村家の癖になっていて自然と十五がテレビをつける係りになっていた。
「よし、そンじゃ朝食にしようぜ」
 一三が新聞紙を閉じ、リィーデリンググラスを取った。
 普段のシャープさもどこへやら、髪もクシャクシャで、シャツもよれている。しかし普段とのギャップはあれど、こうして家族と朝食を取ることを重視する姿に兄の威厳めいたものを感じさせる。
 全員がテーブルを囲み、手を合わせた。
「いただきます」
 手に続き、声を合わせたあと朝食が始まる。
 これはどこの家庭にもある極々普通のことかもしれない。だが、三六はこういう普通の幸せが好きだった。
「三六、学校はどうだ?勉強は分かるか? 苛められてねぇか?」
 味噌汁を手にした一三がまるで『娘を心配する父親』のような口調で尋ねてくる。
「大丈夫です。上手く言ってますよ」
 三六が微笑むと一三は『たはは』といつものように笑う。この笑い方が好きなのは内緒だ。絶対調子に乗るから。
「十五君はどうですか?」
 十四に尋ねられ納豆を混ぜていた十五は不満げな顔を浮かべる。
「んー。サッカー部の練習がないからつまんないよ」
「ああ、事件のせいだな、そいつは」
 一三の言葉に十五はコクリと頷く。
 丁度、タイミング良く、ニュース番組では隣街で起きた猟奇連続殺人事件のことに触れる。それは小中高の若者をターゲットにした猟奇殺人事件だ。
「あ……このニュースだね」
 十五が小さく声をあげ箸をブラウン管に向ける。
「ああ、まだ解決してねぇンだよな」
 味噌汁をすすりながら一三が呟く。その口調は実にどうでもよさげだった。
「早く警察に捕まるといいですね」
「私達がそれを言ったら御終いですよ、三六さん」
 と十四が微笑を浮かべる。確かにそうだと三六も思った。
 時々、三六は自分が『こちら側』の人間と言うことを忘れそうになる。
 普通と異常の境目が限りなく曖昧なせいだ。
 表と裏、そういう物が溶け合い癒着し合い自然と住み分けられることで世界は成り立ち、多くの人間は世界の仕組みになど気づかない。原理は知らなくてもパソコンが使えるのと同じだ。世界の成り立ちを知らなくても生きていける。
 もし気づいてしまっても目を逸らせば溶け込んだ物を知らないふりをしながら生きれる。だが、見える世界は変わってしまっているだろう。
 もし、見つめることを選べばさらに選ばねばならない。己のスタンスを。カテゴリーを。その世界で自分はどう生きていくかを。
「出来れば普通に生きてたいんだけどなぁ……」
 三六が混ざり合う珈琲のミルクを眺めながら、ポツリと呟いた言葉は誰にも届くことはなかった。黒と白がカップの中で混ざり合い静かに揺れていた。

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