第三回ノ一
『ピヨコと卓士』


 

目覚めた時、さっきまで見ていた夢を思い出した。
 ジークムント・フロイドは無意識なものには色々な欲求や願望があり、それらが、眠っているときに映し出されるものが『夢』だと説いたと、一般教養カリキュラムの中で学習した記憶がある。
 カール・グスタフ・ユングはフロイドが個人の無意識を説いたのに対して、ユングは人類世界共通の集合無意識があると説いた。
 どちらでもいいけど僕のように躊躇いもなく人を殺せる感情のない機械でも、夢を見るのというのが不思議に感じた。無駄なことは感じない、考えない――そういう風に僕は製作されたはずなのに。少しは人間に近づいたということだろうか。
時間は朝五時。そろそろ支度を整え冬のアパートに向かう時間だ。
 思考能力が低下している為、シャワーを浴びて適切な判断能力を回復させることにした。
 ゆっくりと布団から体を起こした後、洗面所の鏡面台の前に立つ。
 シャツを脱ぐと首に下げているプラスチックの指輪に触れながら鏡を見た。
 いつもと変わらぬ子供っぽい顔、なよなよした華奢な体格、それと腹部に出来上がった火傷の跡が鏡に映る。刺し傷を無理矢理焼いて止血した跡だ。スレイヴの再生能力はマスターとほぼ同等だが、思ったよりも傷が深かったらしくまだ完全に再生していない。生活では問題はなさそうだと判断するが、戦闘ではどうだろうか。確認しておく必要があることを感じた。
 ふと、鏡に映った首筋の正三角形模様――契約痕(リ・バースディサイン)が目に入った。僕が冬のスレイヴである証。怜貴のスレイヴになった総司も毎日これを目にすることになるのだろうかと、流れ出すシャワーの熱い飛沫を浴びながらそんなことを考えていた。
 シャワーを出た後、濡れた髪を適当にタオルで拭きながら居間に向かう。仕事で離れている義弟の終からメールが届いてた。たわいのないことだけど何故か不思議な気分だった。この気持ちを嬉しいというのだろうか。
 そんなことを考えながらテレビのある居間に入る。
 テレビを見ることにより、学校内で話題を合わせるための情報収拾と仕事の為の情報収集、人間的な感性の学習を行おうとしたが、居間で燃えるような赤毛の女性が胡坐をかいていた。
「にゃは。よぅ。たっちゃん。おはようさん」
 ずいぶんと陽気な声だった。
 テレビをつけていたアパートの隣人、ピヨコは片手をあげる。
 華宴櫓ピヨコ(かえんやぐらぴよこ)――十八歳。
 職業、殺し屋。現在は藍空市新七班に所属。藍空市内在住、同アパート隣部屋。ピヨコとの付き合いは長く、仕事でも何度か協力してくれている。
 昨日、仕事で怪我をした僕の傷口を焼いて止血したのも偶然通りかかったピヨコだった。そのピヨコは卓袱台の上に置かれた栄養補給用のプリン、98円を食べていた。ピンク色のパジャマのまま勝手に人の部屋に入り、冷蔵庫を漁るのはいささか常識に欠ける行動だと僕は判断した。きっとこれがピヨコでなければ、外敵とみなしとりあえず行動不能にしていただろう。
「今日もよく燃えそうな良い朝だな」
 人の部屋に勝手に侵入し、冷蔵庫の中身を物色したことに対してのコメントがないのはいつものことで、僕と同じく『アンセム』で製造された人間である為、常識がないのは理解できるが――もしかしたら僕より酷いかもしれない。
「なに突っ立てんだよ、座れよ」
 ピヨコはニュースを見ながら手招きする。
 僕がその場に座るとピヨコはウルフヘアーをくしゃりとかきあげる。寝起きなのかいつもつけているクロス型の髪飾りはつけていなかった。
「お前な、そこじゃねぇだろ?」
「?」
「私の隣に座れよ。ここだよ、ここ。近寄れよ」
 僕は言われるままにピヨコの脇に座る。するとピヨコはなぜか頬を染め、モジモジと不審な仕草を見せた。
「……なぁ、そのよ、二人っきりでこうしてるとよ、あれじゃね、夫婦みてぇだよな、なんかさ、にゃはは」
 朝から何を言っているのか理解できない。
 ピヨコが僕の仕事に絡んでくるのはいつものことであり、勝手に部屋に入ってくるのも今に始まったことでもないのに。
「お前さ……膝枕とかして欲しくねぇか?」
「いや、いいよ」
 と僕が答えるとピヨコの手にしていたリモコンが溶けた。
溶けた板チョコレートのようにどろりと机の上に零れ落ちる。なんてことをするのだろう、と普通なら怒るところだろうか。
「そっか。うん。にゃはは。そっか。別に悲しくなんかないぜ。そうだよな。そうだよな。私みたいなのに膝枕とかされたくねぇよな」
 ピヨコは何故か、涙目で窓の外を見ていた。
 どうやらまた何かまずいことを言ってしまったようだが、僕はこういう時にどうすればいいのかは既に学習している。
 相手の望む答えを読み取りそれを実行することだ。
 とりあえず僕はピヨコの意志を読み取った。
「嫌いじゃないと判断するよ」
「え?」
「ピヨコの膝枕」
 ボッとピヨコの顔が赤くさせ、髪をかきあげる。そしてわざとらしく咳き込んだ。
「おいおいおいおい。いきなり何言い出すんだよ、たっちゃんよ。さっきは冷たく答えたくせによ。お前、さてはあれか、ツンデレか。年上の女を弄びやがってよ。仕方ねぇな。まぁ、その、なんだ、して欲しいわけだな、本当は。仕方ないな。特別に膝枕……してやるよ」
「ピヨコの膝、蹴り殺すのに向いてるよね。羨ましいよ」
 ――いきなり卓袱台が燃えた。勢い良く燃え盛る。
 どうやら怒らせてしまったようだ。
 ピヨコの意志を読み取り、膝のことを褒めて欲しいと判断したが間違っていたらしい。
 冬にしてもピヨコにしても、『感情のない僕に人の気持ちが分かるはずなどない』と知りながらも理解を求めてくる。それを不思議に感じている間に、卓袱台だけが綺麗に灰になってしまった。
 とりあえず、アパートを燃やすのは近隣住人とのトラブルの元になるのでやめて欲しいと告げようとした時、最近市内で起きている事件についての報道が始まった。
 ピヨコの瞳が鋭利な刃物ように研ぎ澄まされ、ブラウン管を見つめる。
「フラワー事件の報道はねぇな。藍空市が完全に抑えてるな」
 フラワー事件。数日前から始まり既に数十人の犠牲者を出している事件。その事件の調査に当たっているのがピヨコ達、新七班だ。
「たっちゃん。続くぜ、まだまだ続くぜ、この事件はよ。続いちまうぜ。エスカレートしてくぜ、ぐんぐんとよ。深淵にはまだ辿り着いてねぇ。自分の居場所がない奴は誰だって傷つけられるしどこだって壊すことができるんだ」
 そのニュースを見つめピヨコはそんなことを口にする。
「ああ、そうなんだ」
 と、僕は答える。
「居場所がないのは私も同じだけどな」
 ピヨコに至っては居場所など求めないし、必要ない。
 だから誰だって殺せるし、物質を燃焼させるの異能力を持ったピヨコは周囲を燃やし続けるだろう。僅かにピヨコの周囲で温度が上がっているような気がした。
 そのニュースを聞きながら、ピヨコが歯を噛み締めるのが分かる。
「別にどこで誰がどうなろうが知ったこっちゃねぇ。私は基本的に自分と、まぁ、ついでにたっちゃんが無事ならそれでいいからよ。ただよ、何の力もない子供とかよ、弱い立場の奴を戯れに殺すってのはよ、なんかよ、胃の辺りがチリチリしてきて燃やしてやりたくなるな」
「総司も調査に行ったの?」
 僕は気になっていたことを尋ねた。
 総司がこちら側の世界に踏み込んで数週間、藍空市のダムドコミューンでバイトを始めて数日経っている。総司は元は普通の人間だった。
とある事件で僕や冬と係わり合い、僕や冬が人間ではないことを知り受け入れてくれた。
「総司?『リッパーウィープス(雨夜に泣く刃)』の霧沙希涼貴とコンビ組んでる佐東総司だろ」
 総司の名前を出した時、ピヨコが少しだけ唇を噛んだ。
 嫌な予感というのだろうか。心が押し潰されそうな感覚が不意によぎる。
「そのことで話があってお前のアパートを訪ねた」
一瞬の間の後、ピヨコは告げる。
「契約は失敗だ――」


 
第三回ノ二
『朝』



 ロックは死んだ。マリリン・マンソンが殺した。
 目覚まし代わりの携帯から流れてくるのはマリリン・マンソンの『ディス・イズ・ザ・ニュー・シット』。携帯から流れ続ける、ハード&ディープなサウンドを無骨な指先が止めた。現在、五時半。高校生にしては少しばかり早起きだ。
 目覚ましを止めた少年はぼんやりと音楽の余韻に浸る。
 実を言うと、それほどこの曲が好きでもない。ただ、友達が入れてくれた曲を使っているだけだたったりする。
 そう、とても大事な友達が好きだった歌だ。
 大事な友達なのに――寝起きのせいか、頭がぼやけてそれが誰か思い出せない。
 その友達は落ち込んだ時に、マリリン・マンソンを聞くと元気になれると言っていた気がする。正直、この音楽で元気になれるのが不思議で仕方ない。
 その感性が理解できなくて喧嘩になったこともあったが、すぐ仲直りするのがいつものパターンだった。
 そこまで思い出せているのに。何故思い出すことができないのだろう。
 少年は布団からしなやかな長身を起こす。
 そして、糸目をさらに細めて欠伸を一つした。
 いつもと同じ朝が来た。退屈だが、穏やかないつもの日々が始まる――薄く靄がかかり喪失感に駆られる日々が。ぽっかりと大事な何かが抜け落ちてしまった日々が。
 シャワーを浴びてテキパキと着替えると、サンダルでアパート前のゴミ捨て場にゴミを出しに行く。一人暮らしは中学の頃からで、今や、すっかり手馴れ、高校、一人暮らし、アルバイトの三つをしっかりとこなしている。と、言っても少年の通う、湯澤大学付属高等学校では下の方の成績だが。
 少年の手が握ったゴミ袋は、プラスチックと燃えるゴミにきっちりと分けられ、ゴミ袋には『佐東総司』と少年の名前と住所が記されていた。少年の住む藍空市はゴミの分別がしっかりしていて細かい。総司はそれを特に面倒だと思っていないし、特には気にしていなかった。ルールがあるなら守る、それだけだ。と言っても、 未成年の分際でアダルトビデオを借りるという重大なルール違反は内緒だ。
 朝の静謐な空気を纏うと頭が少し冴えてくる。それでも、どこかぼんやりと霞がかかり、何かを忘れているような感覚がした。それは、パズルのピースが一つだけ合わなくて完成しないような感じで、とてももどかしかった。
 ふと、総司は足元のアスファルトに生ゴミが散らかってることに気づく。
 多分、夜の内に捨てられたゴミのせいだ。千切られたゴミ袋から中身が散乱している。
「おいおい」
 総司はそれをてきぱきと片付け始めた。決して、総司がそれをする必要はないし、別に誰に頼まれたわけでもない。それでも、やる――佐東総司はそういう少年だった。
 学校などでは、よくお人好し等と言われるが、総司自身それは理解している。だが、理解していても見て見ぬフリができない、そういう性格だった。そのため、損をすることも多かったり、面倒ごとに巻き込まれることが多い。それはきっと、この先も変わらないだろう。
「手伝おうか?」
 そんな声が背後から聞こえてきた。
 総司が振り返ると、そこにいたのは総司と同じ学校の中等部の制服を着た少女だった。
 細く、抱きしめたら折れてしまいそうな体つきだった。凹凸のあまりない体つきだが、ブレザーが良く似合っている。少女がどこか儚く見えたのは、朝の輝きを浴びた白い肌が余計にそう見せたのかもしれない。最も特徴的なのは少女の髪型であり、片方の瞳は髪の毛に隠れ、水木しげるのキタロウみたいなショートカットだった。
「ああ、ありがとうな」
 総司は糸目を細め微笑み返す。
 少女の綺麗な瞳は真っ直ぐに総司を見つめていた。
 二人の視線が重なった瞬間、総司はガラスが割れるような高く響き渡る音を聞く。
 刹那、総司の体の中を熱い何かが駆け巡る。それが何のなのかは分からない。
だが、総司にはその感覚がとても懐かしく思えた。
「でも、いいや。手が汚れちまうだろ?」
「それを言ったら君の手だって汚れてしまうよ?」
 総司は自分が傷つくことや、汚れることを怖れないし躊躇わない。周りの人間が嫌な目に遭うことの方が耐えられなかった。それは偽善と呼ばれてしまうかもしれないが、使命感でも正義感でも何でもなく、持って生まれた優しさだった。
「ああ、大丈夫。俺はすぐそこのアパートだからさ」
――知ってる。少女が小さく呟いた声は総司に届いてなかった。
「大丈夫だよ」
 そう言うと中等部の少女は微笑を浮べ、総司を手伝ってくれた。それは口元だけで笑みを浮かべる穏やかな表情だった。
「中等部の制服みたいだけど、湯澤高か?」
 総司の問いに少女はコクリと頷く。
「そっか。なんかどっかで見たことある気がしてさ」
「そう――なんだ」
 総司が笑いながらそう言うと、少女はうつむいて言葉を返す。
 その意味に総司が気づくことはなかった。
 異性と付き合ったことがない総司は、女性の細やかな心情を察することができない。端的に言ってしまえば鈍感だ。
「手洗ってくか?」
「大丈夫。学校で洗うから」
「そっか。学校とかどっかで会ったらよろしくな」
 そんなことを言いながら、総司がアパートに戻っていくのを、少女はただ見つめている。
 その双眸は、儚い悲しみを宿していた。それだけではない。去り逝く者を見送る時のような切なささえ秘めている。
 少女は総司に向かって伸ばしかけた手を止め、そっと握りしめ、
「総司君……」
 消えそうな程弱々しい声で、その名前を呟いた。
「怜貴、接触は禁止されてるはずだぜ」
いつのまにかその背後に立っていた青年が静かに呟いた。コートの下からのぞく地肌は白い包帯で覆われ赤い血が滲んでいた。
「分かってる、分かってるよ、デニム君。ボクは分かってるんだ。でも――」



第三回ノ二
『違和感』

ゴミ捨てを終えた総司は、昨日の夕飯の残りのカレーを鍋で温め食べた。
「なんだろな……」
 感じた違和感を口にしてみる。
 何かが足りない。とても大事な何かが。
 それを何で忘れてしまったのかも分からない。ただ、その大事な物がもう二度と取り戻せないような漠然とした不安だけがあった。
 駅で失くした落し物が全て遺失物置き場に届くとは限らないように、失くした物全てが取り戻せるとは限らない――総司はそれを知っていた。
 むしろ、二度と手に入らない物の方が多すぎる。そして、失くしてからそれがどれだけ大事だったのか思い知らされることばかりだ。
 少し何かが物足りないカレーを口に運んだ時、玄関のドアがノックされた。
「グッモーニンだよ、総司ちゃん」
 柔らかで高い声が玄関から聞こえてくる。
「おう」
 総司がドアを開けると、そこには金色の髪の小さな少女と、眼鏡の少年が立っていた。
 二人は総司と同じ学校の生徒で中等部から一緒だった。
「おはよう、総司」
 抑揚のない声で挨拶する少年の表情、口調、存在から、澄んだ湖畔のような静謐さがあった。それは女性的な線の細さのせいでもあり、落ち着いた物腰のせいもあった。
 見るものが見れば、その物腰を十代の物と感じることはないだろう。一体、どんな生き方をすればこうなると言うのか。
 それとは対照的に少女は、向日葵のように周囲を明るくするような笑顔を浮かべていた。
 少女は日本人と欧米人のハーフであり、端正な顔立ちをしているがそのあどけなさは愛くるしくもある。
「おはようさん、二人とも。飯は食ってきたのか?」
「うん。たっちゃんと食べたよ」
 少女はニッと笑うと少年の腕を抱き寄せる。
「おうおう、仲のよろしいこと」
「スレイヴはマスターの物だもん。ハグするのはデフォルトだよ」
 子猫がじゃれつくように少女は甘えるが、少年の方はそれに動じることなかった。鈴原冬架がベタベタ甘えるのは、高瀬卓士にとってはいつものことで今更あせることではないのだろう。最近は、否定するのも面倒なのか、言わせたい放題にしているようだ。
「総司、カレーの匂いがするね」
 ポツリと卓士が呟いた。
「お、分かる?こないだ引っ越してきたお隣さんからカレーのルー貰ってさ」
 そこまで言って、総司は妙な違和感を感じる。胸の奥が酷く痛む感覚は、また何かを忘れていることを伝えていた。
「前に……隣に住んでいたのは誰だったけ?」
 そんな言葉を発して総司は考え込む。
「総司ちゃん……」
 何かを言おうとした冬架は卓士を見た。卓士が首を小さく振ると、冬架は瞳に翳りを宿しうつむく。そのことに総司は気づかなかった。
「前に住んでた人だよね。カレーに肉じゃが混ぜてた一族だよ」
「いやいやいや、カレーに肉じゃがはいれないだろう。なんだよ、その不思議一族は」
 卓士があまりに真顔で言うので信じそうになってしまった。
「カレーに肉じゃがなんて……」
 言葉をなぞった瞬間、総司の脳裏に何かがよぎる。
 いつも、休日になると総司の部屋まで聞こえてくる声――。
 三人兄弟の長男と次男のいつものやり取りだ。
『さぁ、十五。今日は兄ちゃんの作った肉じゃがカレーだ』
『兄貴、この中に入ってる透明の何?』
『寒天だ。栄養たっぷりだぞ。みのさんもオススメだ』
『ええと、ファイナルアンサー?』
『ファイナルアンサーだ。お兄ちゃんの愛情がだな、たっぷりと、』
『……捨てていい?』
 ――勢いよくカレーがぶちまかれる音を聞きながら、総司は卓袱台に置かれた茶をすする。
『許可得ながら窓から捨てやがったな!!しかも皿ごと!?その皿は俺の手作りで裏に十五の顔が彫ってあったのに!?』
『気持ち悪いもん作るな!!』
『気持ち悪いだと、お前、お兄ちゃんの愛を何だと思ってるんだ!!』
『兄貴……』
 総司はそろそろ止めに行こうかと迷った。ふと、立ち上がろうとした総司のシャツを小さな手がつかんだ。
『そこになおれ、スキンシップと称して抱きしめてやる!!』
『え、え、え、ちょ……やめ………兄……』
『さぁ、俺のことはお兄ちゃんと呼べ!!』
『やめ……』
『さぁ、このままお兄ちゃんと兄弟のファイナルアンサーを……』
『やめ……やめ……やめろ言うとんじゃ、ダボガァ!!オラァ!!』
『ぐべ!?おま、予想以上にいい拳というか、ナックル!?ナックル付き!?』
 ――骨のへし折れるいい音。総司と卓袱台を挟んで座った少女はお茶をすする。総司を止めた三人兄弟の妹は、無表情で湯飲みを見つめていた。この少女は物静かな性格でよく、総司の部屋にお茶を飲みに来ている。まだ中学生ぐらいだが、上の二人よりはずっと大人だ。
『……バカ兄弟』
『まぁ、あれだ、個性的な兄弟持つと大変だな』
 ――総司が苦笑いすると、コクリと少女が頷く。
『……バカにつける薬なし』
 ――二人がそんなことを話していると、玄関のドアが開く。
『総司君、大変だ。空からカレーを捨てた罰当たりがいるんだ』
 ――カレーまみれになった、隣の住人である少女が駆け込んでくる。
 そこまでだった。そこで記憶が途切れてしまう。その兄弟のこともはっきりと思い出せない。
 自分にとってとても大事な人たちだったはずなのに。
 どうしても顔が思い出せない。大切な友達なのに。
「確か隣って……前に住んでたの女の子だったよな」
「うん、そんな気もするけど、どうだろうね」
 卓士はそう答えながら、何か言いたげな冬架の頭にポンと手を置いた。それだけで卓士の言いたいことを察したのか冬架はまたうつむく。
「鈴原、調子悪いのか?」
「ううん。少し眠いだけ」
 総司が不思議そうな顔をすると、冬架はやや大げさに首を振って見せる。
「総司ちゃん、この後はトレーニング行くの?」
「ああ。カレー食べたらな。俺もさ、もうスレイヴなんだしさ。少しずつでも強くならないと、マスターの迷惑になっちまうしな」
 少し照れて総司は鼻をすする。
 そう、強くならねばならない。こんな所で止まってる場合ではなかった。
 守らなければならないマスターがいるから。
「あ、卓士達はどうするんだ?」
「僕達は用事があるから早めに学校に行くよ」
「そっか。じゃあ、放課後また組み手とかしてくれよ。やれることは全部やりたいんだ」
「……うん。そうだね。大切な物を守るには強くならないといけないから」
 守るためには力が必要だ。力を得るためには意志が必要だ。意志だけでも、力だけでも何一つ為すことはできない、総司はそれを知っている。
「……」
 総司は開いた手の平を見つめた。
 知っているはずなのに、なんで、それを知ったのかが思い出すことができない。
 そもそも、守りたいマスターは――誰だろう。
 卓士のマスターの冬架は吸血鬼で――。
 その従属者であるスレイヴの卓士は、冬架を守る為に戦ってて――。
 総司のマスターは――。
 その従属者である総司の戦う理由は――。
「どうしたの、総司ちゃん」
「あ、いや、なんでもない、なんでもない」
 迷いを振り切り、総司はグッと開いた手の平を握り締める。
 感じたのは空をつかむ虚しい感触だった。
 何故だろう、確かにあった何かが欠落してるのは。
 大事な物はこの手の平につかんでいたはずなのに。
 なぜ、マスターのことを――親友のことを思い出せないのだろう。
「じゃあ、僕達は行くよ」
「おう、学校でな。昼休みとか稽古頼むな」
 グッと総司が突き出した拳に、卓士も拳を当てる。その拳は、総司の知らないところで冬架をずっと守ってきた拳だ。重い。そして大きい。今の総司とは比べようもない程に。
「うん。総司もあまり無理はしないようにね」
「後でね、総司ちゃん」
 そう言いながら、二人は玄関から去っていく。靴音は冬架の分だけだった。
 幼少時から戦闘訓練されている卓士は足音を立てない。その気になれば足跡さえ残さないだろう。総司にはまだまだ出来ないことだが、そういう技術を歩方というらしい。
「うしっ」
 総司は気合を入れるとカレーを一気にかきこむ。
「強くならないとな――俺も」
 守りたいのはマスターだけじゃない。
 卓士や冬架、学校の皆、全てを守りたかった。自分の周りの誰かに悲しい思いや、苦しい思いをさせない為にスレイヴになったのだから。


第三回ノ三
『雨に濡れる刃』



「たっちゃん……」
 総司の部屋から去った直後、ふいに冬架は階段の前で立ち止まる。
「冬……」
 震える声で冬架は呟く。
「私達、ダムドにとってね……。吸血鬼、人狼、屍喰らい、どんな種族のダムドにとってもスレイヴって命の次に大事なんだよ」
「ああ」
「マスターとスレイヴの契約は危険も伴うし、それにね、それに好きな人とじゃないとしないんだよ?知ってるよね、ダムドの愛情も嫉妬も人間の三倍って……」
 卓士はいつもの抑揚のない声で、冬架を背後から抱きしめる。落ち着けるにはこうすることがいいと知っているからだ。
「総司ちゃんはスレイヴになる意味を知らないかもしれないけど、一生を捧げるって意味なんだよ。だからマスターも、マスターも……」
 冬架は卓士の制服の裾をキュッと握り締める。折れてしまいそうなほど細いその手は悲しみに震えていた。
「だから、私には分かるんだ。あの子にとってどれだけ、総司ちゃんのことが大事だったかって。人間に正体を打ち明けることにどれだけ勇気が必要だったか……!! それを乗り越える為にどれだけ迷ったか……!!」
 こぼれた涙が抱きしめた卓士の手を伝い、コンクリートに染みを作った。
「冬……」
 二人は知っている。
 総司はつい最近まで人間だった。人間側の存在だった。
 多くの人間がそうであるように、冬架や卓士のような存在がいることを知らなかった。
 マスターである霧沙希怜貴に、その存在を打ち明けられ――受け入れるまでは。
交差点の人ごみ、学校のクラスメイト、街中の溜まり場、ごくごく接するいつもの友人、そんな中に冬架や卓士のような存在が、人間となんら変わらぬ外見で溶け込み、独自のコミューンを築き、秩序の中で人間として生きていた。
 その存在はこう呼ばれている――ダムド、と。
「冬、大丈夫?」
「……」
 返事はなかった。
 代わりに蒼かった瞳を真紅に染めて冬架は頷く。
 瞳の色の変化は、冬架の感情が極度に高まっている状態の証拠だ。
 その影響を受けて周囲の大気も呼応し、僅かに震動している。
 ダムドとしての力をほとんど持たない冬架でも、感情が高まっている時は別だ。その魔力は限りなく赤い瞳の王に近づく。卓士は冬架の発する熱で自分の身体が焦げていることに気づきながらも、それでも抱きしめる手を離さなかった。
「なんで、なんで、総司ちゃんが受け入れてくれたのに……」
「仕方なかったんだよ、冬……」
「でも、でも、契約に失敗して、全部、全部、忘れちゃうなんて――!!」
 総司に全てを伝えたかった。だが、それは、伝えることは許されないことだ。
「冬、記憶を強制的に取り戻した場合、どんな影響が出てくるか分からない」
「分かってるよ、たっちゃん」
 最悪、人格崩壊を起こす可能性もあるし、存在が歪んでしまうこともある。
 冬架だってそれぐらい分かっている。
「私、たっちゃんみたいに、冷静じゃいられないよ――!!」
冬架は自分の物を傷つける存在を許さない。元々身内意識の強いダムドだが特に冬架は身内意識が強い。そして何よりも自分と重ね合わせる部分の多かった怜貴がそうなってしまったことに心が軋んでいた。
「それでいいんだよ、冬。それでいんだと思う」
卓士は静かに呟く。冬架の怒りを否定することなく。
「でも伝えることはできない」
「たっちゃん――」
 冬架は伝えたかった。どうしても、総司に。
 戦う理由も、大事な物も、総司は失ってしまった。
 重ね合っていた思いも、重ね合っていた日々も、何もかも消え去ってしまった。
 それはあまりにも――悲しすぎる。突き抜けるような痛みと切なさが冬架の身体を震わせた。
 ギュッと卓士は胸の中で嗚咽をもらす冬架を抱きしめる。
「総司……」
 曇り始めた空を見つめ、卓士は小さく呟いた。

 


「ひゃは。しかし、しかし、しかしだぜ。このデニムさんがこうもむざむざむざむざ無残な姿にやられちまうとは信じられない話だと思わねぇ?」
 曇天模様の下、公園のベンチに座りながら青年が笑う。嘲るように、皮肉るように。青年はその体をロングコートで隠してはいたが、裾から覗く包帯からは薄っすらと血が滲んでいた。その隣にちょこんと座った少女はうつむき加減で通りを行き交う人の流れを眺め続ける。
「心ここにあらずってか。気持ちは分かるがよ。仕方のねぇことってのもあるんじゃねぇのか。俺だって辛いんだぜ?」
 その言葉にも少女は答えることはなかった。その様子を眺めながら青年は包帯で覆われた口元から吐息を漏らした。
「辛いって言ってもお前さんほどじゃないわな。悪かった」
 霧沙希怜貴の返事はなかった。
「きっちりと落とし前はつけるさ。あの場にいたうちの班員もやられちまったんだからな」
 うつむいたままの霧沙希怜貴には目の前の通りを走りぬける総司の姿は映らなかった。心が曇れば見えているものも見えなくなる。心が迷えば信じていた物も嘘になる。心がなければ世界は存在しない。怜貴にかける言葉も分からずデニムは包帯の上から自分の傷口をかいた。
「なぁ、元気出せよとは言わないけどよ、お前さ、これからどうするんだ?」
 その言葉の後、怜貴は静かに立ち上がる。
「今は何も――したくはない」
 それが怜貴の選んだ答えだった。言葉はなかった。デニムただただ去っていく怜貴の背を見つめ続けるだけだった。時にはかける言葉さえ剣となる時がある。どんな言葉も届かない時がある。怜貴自身が自分の足でもう一度立ち上がらなければならない。だが――。
  ポツリポツリと降る出した雨は勢いを増していく。
  足取りに目的はない。ふらふらと彷徨っても立ち上がる一歩にはならなかった。
もう傘を差し伸べてくれた総司がいないことを思い出した時、両の瞳から涙が溢れ出していた。



第三回ノ四
『黒衣の王(ブラックサバス)』


 黒の碑はフリードリヒ・ウィルヘルム・フォン・ユンツトが記した魔道書『無名祭祀書』にも記されており、その中ではハンガリー山奥のシュトレイゴイカバールにある石柱とされている。
 だが士郎答はそれが『固有結界』とまたは『隠宮(カクレノミヤ)』と呼ばれる固有結界であることを知っていた。士郎答が胡坐を掻いている畳も鴨居や長押、等間隔で設置された灯篭すらも魔力の産物だ。
 それら全てを作り出したのは答の前にちょこんと座り本を読んでいる少女だった。黒いマントと黒いシルクハット、頭から足元まで全て黒で染め上げた姿は薄暗い闇の中に溶け込むようでもある。だが闇よりも暗き黒とこの少女が呼ばれる理由は別の所にある。
 黒の派閥盟主トイ・タ・ボ・クゥーの名を聞いた物はまず間違いなく『黒衣の王(ブラックサバス)』の二つ名と『虐殺王』の名を思い出すだろう。
 黒の王はほんの数十年前まで人間を殺し続けてた。他の王が表舞台から姿を消したにも関わらず、黒の王は舞台を降りることはなかった。中国で2000万人、ドイツで600万人、ルワンダで80万人、それが死体となった観客の数だ。
 中国では中国共産党創立メンバーの一人である男の傍らに、ドイツでは国家社会主義ドイツ労働者党党首の傍らに、ルワンダではフツ族出身の首相の傍らに。この三人の名前は歴史の教科書を開けばすぐにでも分かる。
 黒の王は常に歴史と共に、大虐殺と共に、この世界の表舞台に現れてきた。決して自分の手を汚さず、人間を利用し、殺し続けた。別に殺しが好きなわけでもなく、どちらかと言えば人間が好きだ。全ての動物の中で最も人間が好きだ。その言葉に嘘、偽りはない。ただ黒の王は人間よりも人間の死体が好きだった。
 悪意の塊、それが黒の王だ。完全なる闇を目の前にして士郎答は薄っすらと笑みを浮かべる。他の物が関わることを拒む本物の暗黒が目の前に座っていても士郎答が動じることはなかった。
「ここに来るのはどれぐらいぶりだろうな。創世記戦争の頃か、八王戦の時か」
「いーや、私の部下を君が口説きに来て以来なのだよ、ウィナーノ。いや今は士郎答なのだね」
 答は『あー』と笑いながら髪をかいた。
「あの娘、結婚しちまったんだよな。下着の変わりに香水を纏っているのよ――ってよく言ってたなぁ」
 答は昔を懐かしむような遠い目で『いい尻』だったと呟いた。
「わざわざここまで来るとは今度は何をしに来たのだね?私のコレクションを見に来たわけでもあるまい。出来れば私は君でなく『たっちゃん』にメス豚と呼ばれて尻を叩く無表情攻めをされたかったのだが」
 クククと士郎答は意地悪く笑った。
「なーに、たいした用事じゃねぇ。市議会ちゃんに完全に見捨てられて暇になっちまったもんだからよ」
 あっけらかんと話す答の瞳を見つめ『ふむ』と黒の王は呟いた。
「いい表情になったのだね、士郎答。市議会の傀儡となっていた頃よりは良いのだよ」
「傀儡になってるのは私じゃねぇさ」
 藍空市議会の傀儡になっているのは市民ダムド組織そのものだ。元々は評議長の一人だった答が嫌気をさした理由の一つでもある。
「民主化に移行し他コミュニティと協議を持ち武力を縮小させるつもりだったのだろう?君には先が見えていたのだからね」
『ハッ』と鼻を鳴らし答は笑う。
「ま、昔の話だ」
 その言葉に黒の王はゆっくりと目を細めた。
「フム、君が話したいのはそのことだと思ったのだがね。それとも――」
『ンフフ』と楽しむようにもてあそぶ様に黒の王は言葉を焦らす。答は知っている。それは黒の王がコレクションや死体を愛でる時と同じで楽しんでいる時の癖だと。
「冬架が行動不能にし回収された『ごりあて』の行方かね?それとも或不が何故、藍空市内に潜伏することが出来たのか――等かね?それとも霧沙希怜貴の一事かね?はたまた藍空市内で起きている植物化事件のことかね?」
 そのどれもだ。
 或不事件は始まりに過ぎない――いや、もしかしたら始まりですらなく何かが既に起こりその一つなのかもしれない。水面に投げつけられた小石の波紋が広がっていくのなら、黒の王は小石を投げた物の手がかりを握っているはずだった。
「嫌な奴だな、相変わらず」
「嫌な奴ついでに言っておくのだがね。その程度のことなら冬架は既に把握しているだろうね」
「分かってるさ」
 冬架が黒の王と同じ視点で物を見て、同じ視点で考えることができる、ある意味で黒の王に最も近い存在であること、その危うさは答も分かっている。
「ではあの怪物が何もしないことはわかるだろう。どうでもいいのだよ、冬架にとってはね」
「それも分かってる。そういうところが可愛いんだよ、あいつはよ。抱きしめたくなっちまう」
 僅かに答は頬を染めながら吐息を漏らした。それは見るものが見ればゾクリとしてしまうほどに艶のある表情だった。もしここに山野夕日がいたら赤面していただろう。
「夕日も怜貴も操も虎徹も藍空市に住んでる女は全員、私の女だ」
 恥ずかしがることもなく淀みも躊躇いもなく、士郎答ははっきりと言い切った。
「そいつを悲しませるのは私が許さねぇ」
「それでここに来たのだね、士郎答」
『フム』と呟き黒の王は読んでいたエソント著書、『死体には安息が必要か』を閉じた。
「植物事件のことで『たっちゃん』と接触したがっている者が私に仲介を頼んでいるのだよ。藍空市議会のことは信じていないが、君が会っても問題はないだろう」
「なに?」
 少しの間の後、ゆっくりと黒の王はその名を告げる。その瞬間、薄暗い室内の空気が僅かに重くなった。
「緑の派閥盟主、、『碧梧の王(グリーンディ)』――ウロ・チィーエ・ダオ」
「おいおいおいおいおいおい」
 答は静かに動揺を隠しながらも僅かに表情を歪めた。
「なんでまたあいつが――」
「彼女も表立って動けぬ身ゆえ仲介を頼んできたようだがね。フム、愉快なことになってきたのだね」
「人が死ぬのが楽しくてたまらないのか?」
「もちろんそれもあるのだよ、このトイ・タ・ボ・クゥーはそれがこの世界で二番目に好きなのだからね」
 そう答え黒の王は目を細め笑う。その瞳に薄っすらと狂気と残酷さを滲ませて。
 黒の王は答の視線に気づき『フム』と呟く。
「随分と嫌われたものなのだね、私も。今に始まったことではないか」
 ゆっくりと黒の王の幼い口元が歪み、忍び笑いが漏れた。
「恨んでいるのかな、君の姉君を、紅の王を裏切った私のことを」
 ゆっくりと答の体が揺れるように震え――。
「クハハハ」
 吹き出すような笑い声が響く。それが予想外のことだったのか黒の王はキョトンとしていたがその意味を理解したのか『フム』と頷いた。
「カハハハハハハッハ、笑わせるな、バーカ。いつの時代の話だよ」
 答は犬歯をむき出しにして笑う。さもおかしいといわんばかりだが、その勝気な瞳は真っ直ぐに黒の王を見つめ笑っていなかった。
「過去なんて知ったこっちゃねぇ。この士郎答は今と未来と――」
 ゆっくりと突き出された右手の中指が天に向かって立て赤い舌を見せた。
「私のハートを震わせる美少女のことしか見ちゃいねぇのさ」
 士郎答は天に向かって唾を吐くことを躊躇わない。右の頬を打ち左の頬を差し出すような者には拳をくらわせる。神も仏も王もない。例え相手が何であろうと自分の中の譲れないものを護るためならば容赦も躊躇いもない。
 それは黒の王も知っていることだった。
「フム、相変わらず恥ずかしい奴なのだな、君は」
「ハッ。うるせーよ。そう簡単に変わってたまるかよ。私がこうして生きてる間は回りに迷惑かけまくってでも我侭してやるって決めてんだよ」
「全くもってエゴイストなのだね、君は」
「言いたいだけいえ。我を通さず生きることに意味なんざねぇ」
 そう言うと答はゆっくりと黒の王に背を向け、黒の王は『確かにだね』と呟いた。
 どんな立場であろうと、世界を敵にしたとしても、貫かなければならない生き方がある。曲げられぬ物がある。それは答にとっても黒の王にとっても冬架にとっても。
「士郎答。君には教えておこう」
「あ?」
 歩み去ろうとしていた答えがゆっくりと振り返る。
「藍空市最高評議長『創痕葛葉』は既に堕ちているのだよ、君ならこの意味が分かるはずだがね」
 士郎答の額から汗の雫が頬を伝った。


 



 

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