第二回ノ一
『住吉と藍空市の夜』




 住吉犬太はどこにでもいる高校生であり、これと言った特徴もない、どこにでもいる十六歳。
 決して美少年でもないし、特別、格好悪いわけでもない。本当に凡庸などこにでもいるような少年であり、どんな服を着ても学生服が一番似合うようなタイプ――つまりは無個性だ。ちなみに犬太は三日間だけ付き合った彼女に『君はセーラー服が一番似合うよね』と口にしてしまい殴られたことがある。理由は良く分からない。似合う服があるのだから別に問題はないはずなのに。
 無論、理由のみならず、女心も分からない。それは地元の蒼い青春の一ページだったと思うが、あまり思い出したくない。
 そんな苦い思い出のある田舎を離れ、犬太は現在、藍空市の高校で一人暮らし中。
 将来は特になりたいものもなく、自分の不器用さを理解している為、うまくやっていけるなら何でもいいと思っていた。さらに、トラブルにも関わることなく、必要以上、人に干渉することを嫌う。
 つまり、犬太はどこにでもいる現代っ子気質たっぷりの少年と言うことだ。
 放課後、いつも通り、帰宅部の犬太は真直ぐ帰宅するはずだった。
 犬太の通う高等学校は進学校であり、部活の参加は自由。特に何かを始めたいと思わない犬太は迷わず、帰宅部を選んだ。
 かと言って、勉強するわけでもなく、遊ぶわけでもなく、彼女とかがいるわけでもない。
 ただ、何もないから何もしないだけだ。なんとなく、それは言訳なのだろうと気づいていても、日々は過ぎ、入学してから一ヶ月以上が経っていた。
 藍空市は東京と同じで瞬く間に景観の変わってしまう、世界でも比類ない新陳代謝都市だというのに犬太は何も変わらず一皮むけることもない。向けないだけならまだしも犬太は立たない。立ち上がって何かをやろうとしない。それはかなりフェイタルダメージだ。終わってる。目の前には、このまま適当にコンビニでバイトしながら大学へ進学するというルートが見え隠れしていた。フラグもルート分岐なし、恋愛ポイント不足、バッドエンドまで一直線の青春だった。
 今日もそんなぐだぐだの一日が終わるはずだったのだが、何の悪戯か学校内で教員の手伝いをさせられることになりすっかり帰りが遅れてしまった。
少し足早に暗くなった路地を進んでいく。藍空市という街は昼と夜の落差が激しい。昼間は賑やかで和やかだが、夜は一転して人気がなくなってしまう。まるで、野生動物の住み分けのようだ。
 それが妙な不安と焦りを犬太に感じさせ足早に歩かせる。
 夜風が吹き出してアールデコ風の池を小波だたせるように、何かが犬太の心を騒がせ出した時――。
 ボゴリ――唐突にそんな音が辺りに響く。
「あ……」
 背中に氷水を入れられたような、そんな感覚が身体を走りぬける。
 それは落下する夢を何度も繰り返すような感覚にも似ていた。
 ボゴリ――またその音が響く。
 それは動物的な本能だった。
 犬太は夜道を一目散で走り出す。
 肌の鳥肌、不快感と圧迫感、生存本能がそれを教えてくれる。
 ナニカガイルココハキケン――。
 もしも、そこに残っていたら何か面倒なことに巻き込まれる可能性がある。
 振り返らず、逃げなければならない。
 音はより一層激しさを増し、ゴボゴボと沸騰するような音に変わっていた。
 池の水がボゴボゴと、火山のように噴きあがっているようでもある。
 振り返ったら――終わりだ、そう感じ取っていた。
 きっと、怖いものを見てしまう、と。
「ああああああああああああああ!!」
 犬太のものではない誰かの叫びが闇を切り裂き、走り出した犬太の身体がその声にピクリと反応した。
 それは絹を裂くような幼い悲鳴だった。甲高く尾を引く叫び声。
 直後、ザザザザザザザ、という何かが芝生を走るような音がした。
 臭い、強烈に臭い、腐った魚の匂いだ、それが鼻先まで漂ってくる。
 振り返るな、犬太は自分に言い聞かせた。
 見捨てるんだ、自分が助かる為に。
 今までだって――そうじゃないか。普通に生きる為にトラブルは避けて、凡庸な毎日を生きてきたじゃないか。小学校の時の修学旅行だって、危険を察知した犬太だけが食中毒を避けた。なんとなく、そう感じたことに従い助かった。中学の時だって、通り魔に襲われたことがある。街中の人ごみで嫌な気配を感じ、通り魔が暴れだし、大勢の人が負傷した。そんな中、事前に危険を察知した犬太は、大勢の人間が死傷しているに関わらず助かったことがある。思い起こせば、そんな経験がまだまだあった。いつも、いつも、いつも、いつも、いつでも。
 そこまで考えてハッと我に返る。
 ――なんだ、全然、自分は普通じゃないじゃないか、ようやく犬太はそのことに気づく。
 いつも、どんな時も犬太は危険を避けてきていたことに。そして、目の前で起こることを見つめ、自分は普通なんだと思い込もうとしていた。
 でも――。
 でも、ずっと後悔してきた。
 立ち向かわないで死んだように生きる自分に。
 何かできたはずなのに、なにもしなかった自分に。
 犬太は決めた、『きっと、後ろを振り返った瞬間、何か恐ろしい物を見るだろう。だが子供は助ける。決して後悔はしないようにしよう』と。本当はずっとそうしたかった。いつでも誰かを助けたかった。でも怖かった。今は理由がある。子供を助けるという理由だ。格好いい。ヒーローみたいだ。
 犬太は決意を持って振り返る。
 ――即、後悔した。
 見てはいけなかった。見るべきではなかった。子供なんてほうって置けばよかったと。
 それを見た瞬間、ここにいてはいけない。そう分かっていた、感じ取っていた。
 だが、足が動かない。鉛のように重い足は恐怖で完全に痺れている。
 振り返った先には顔があった。
 子供の顔が――。
「ああああああああああああああああああ」
 けたたましく叫び声を上げている、白め黒目の反転した死んだ魚の目で。
 歪んで腐ったようなこの世の物とも思えない、悪意すら感じさせる憎悪の表情だった。
 叫びたかった、犬太も。だが、声が出ず、その場に腰から砕けてしまう。
 そんな犬太を魚はジッと瞬きすることもなく見つめる。
 子供の目と同じ濁って虚ろな魚の真丸の眼球は虚無そのもの――犬太と同じだった。



第二回ノ二
『住吉と藍空市の夜』


 これはなんだ、犬太はショートしかけた思考でそれを連呼する。
「ボゴリ」
 嫌な音だった。呼吸するたびに水で溺れる様な声が魚の唇から発せられる。水泡が水面に浮かび上がる音というよりも、暗黒のマグマが静かに沸騰する音だ。
 目の前のそれが魚に見えないことはない。犬太より大きな体と、下腹部から生えた馬のような足、ギチギチギチギチギチと肌寒い音を奏でる牙を除けば。
 犬太は逃げ出そうとするのに夢中で泥まみれになっていた。
 自分がこれからどうなるか、犬太の持った才能である危険回避能力が危険信号を激しく告げていた。これが夢ではないことをはっきりと教えてくれている。魚の大きく開いた顎が、無数の牙が、その中に生えた無数の目玉が犬太を喰らわんとした。腐ったヘドロのような強い腐臭が犬太を包む。
「オイオイオイオイオイオイ」
 闇の中で誰かが呟いた。
「餓鬼の声は疑似餌って奴ですかぁ、随分と舐めてくれたじゃねぇか、泳げ鯛焼き君よぉ」
 せせら笑う乾いた声。それは助けを期待する犬太の幻想ではなく現実だった。
「今日は大事な大事な日でよ、オレのフレンドが初めて契約する日だってのによぉ。なぁ、フレンド?」
 三人――。
 恐怖で歪んだ犬田の瞳の先に三人が映った。
「助けてやるよ、これがオレの仕事だからな、クソ人間。そしてら消えろよ。神聖な儀式の邪魔だからよ。本来なら目撃したテメェもぶっ殺してやるとこだけどよ」
 魚が背後に旋回すると、三人の内の一人がニヤッと笑う。
 バンダナを額に巻いた犬太と同じぐらいの年齢の少年だった。目つきが鋭いのもあるが長い前髪と目深に巻いたバンダナのせいか凶悪なまでに目つきが悪い。そして、手には目つきの悪さも吹き飛ぶような禍々しい凶器。真っ黒な大斧。
「怜貴、総司。お前らは下がっていいぜ。このクソ魚はサクッとオレが三枚卸しにしてやんよ、新生第七班所属、宮瀬蔵デニム様が――」
 言い終える前に魚が流星のように闇を切り裂いた。
 風を裂いて飛来する弾丸とデニムの細い体がまともにぶつかり合った。大鐘を木槌でぶち叩くような音に犬太は瞳を閉じてしまう。
「テメー」
 デニムの声を聞きながら犬太はゆっくりと瞳を開ける。
「人の台詞は最後まで聞けって幼稚園で習わなかったのか? どっかのマザーテレなんたらだって濡れる百年に一度の名台詞だったってのによぉ! 人の話を聞かないクソバカガァ!! 聖徳太子だって十人全員の言葉攻めを一つも漏らさず十回絶頂してんだぞ! 感位十二回とかよぉ、十七条の淫法とかよぉ!! しらねぇのかぁ、テメェはよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! テメェの体に歴史刻んでやんよぉぉぉぉぉ!!710年、ナントリッパナ全殺し!! 794年、ナクヨウグイス全殺し!! 1192年、イイクニツクロウ全殺しぃぃぃぃぃぃぃ!!」
 立っていた。吼えていた。宮瀬蔵デニムは五体満足でそこにいた。
 デニムは魚の突進を軽々と大斧の柄で受け止めでみせていた。その口元には僅かな笑みさえあった。この戦いを楽しんでいるのか目はギラギラと輝いてさえいる。犬太には狂気としか思えないほどに輝いている。この青年も魚と同じ化け物だと改めて気づく。
 怯えと驚愕の入り混じった瞳で現状を見つめ続ける犬太をよそにデニムと魚の戦いが始まった。
「大丈夫かよ?」
 気絶しそうな犬太に残った二人が声を掛けてくる。もう一人の少年が犬太を起こしてくれたが再びその場にへたり込んでしまった。体が思うように言うことを聞いてくれない。
『大丈夫……』と言おうとしたが言葉にはならない。
「なんと言うか、運が悪かったな、アンタ。一人で帰れるか?」
 糸目のどこか人が良さそうな顔付きの少年だった。
「いや、しかし、残念。アンタが女の子だったら家まで送ってたのに。妹はいる?お姉さんはいる?スリーサイズとか出来れば――」
 そこまで口にしてその後頭部にソバットが。見事なまでの一撃。蹴り飛ばした少女の細く綺麗な脚には恐ろしい威力が込められていた。
「りょ、怜貴……」
「怪我はないみたいだね。家に帰っておいしいカレーでも食べて忘れてしまうといい。あれはいいものだよ」
 蹴り飛ばしたことはどうやらスルーらしい。
 片目を隠したキタロウカットの少女がそんなことを口にする。小柄で華奢な色白の女の子だった。静かな月のような穏やかな表情は澄んだ宝石のような輝きと気品さえ感じさせる。その眼差しが犬太の緊張をわずかに緩めた。
「大丈……」
 震える唇を動かし無理やり言葉を紡ごうとして――言葉をなくした。
 締めた紐を再び硬く結び直すような――その緩急が犬太の意識をゆっくりと遠のかせる。デニムと魚の戦いは凄惨そのものだった。それだけが犬太の脳裏にしっかりと刻み込まれることとなる。


第二回ノ三
『住吉と藍空市の夜』


 砕き、貫き、抉り、切裂き、臓物を、血を、骨を、命を、冷たい刃の先で転がす者。鋼を友とし、刃を生み出す者。銀色の魔術師。偽姓は霧沙希、真姓は切裂。偽名は猟奇、真名は怜貴。八属において『刃』を司る者。人と交わることを拒んだものたち。正統後継者、『魔術殺し』、『雨夜に泣く刃(リッパーウィープス)』――霧沙希怜貴。
 それを佐東総司が知ったのは霧沙希怜貴と出会って三年ほど経ってからだった。
 思えば雨の晩に裸足と傷だらけの体でふらふらと街を彷徨っていた怜貴と出会っていなければこちら側の世界に踏み込むことなどなく生きてきたのではないかと思う。
 半壊した街灯と月明かりが入り混じって、アスファルトの上にねっとりとした光膜を張っていた。肩に担いだ刀剣の重さを感じながら佐東総司は目の前の光景を見つめる。自分はもうこちら側の人間ではないんだ――そんなことを思い知らされた。そしていかに自分が無力であるかを――。
「ハッハァ!!」
 宮瀬蔵デニムの笑い声が響いた。それと同時に容赦なく大斧が魚の口を切り裂いた。黒い肉片と血を浴びながら、高らかに笑う。
 ビクンビクンと動く魚の口から目玉を生やした触手が飛び出した。
「うぜぇ!!俺たち、ダムドをくだらねぇ人間と一緒にするんじゃねぇよ!!」
 右手刀が一瞬でそれを切裂く。そして根元を踏み潰す。
「たぎるぜ、この感覚!!こんな楽しいことが藍空市内ダムドの皆さんのお役に立つなんて最高じゃねぇの!」
 その魚の怪物が元人間でることなど関係ないとでも言うように斧は魚がこの世界から四散するまで振り下ろされた。狂気の笑みと共に。
「ハッハァ! てめぇにどんなバックグランドがあろうがなかろうが関係ねぇ。震化したらぶっ殺す、それだけだぜぇ?そぅら、死ね死ね死ね死ね!! ほら、死ねよ、早く死ねよ、さっさと死ねよ、死ね死ね死ね。あーたのちいなぁ!! 最高ですかー!? 最高でぃーす! 死ね死ね死ね!!」
 飛び散る反吐のような黒い血、肉片。
 魚の体細胞、血液は四散した先から風化しこの世界から消えていく。
 デニムの攻撃が止まる頃には既に魚の姿などなかった。
 震化体(デルフィリア)、その怪物はそう呼ばれている。
 元は人間であったり動物であったり――それが何で生まれるかは分からない。
 分かっているのは蒼い月の夜に震化する者が多く現れること、ダムドとも人間とも違う第三の存在ということ、世界規模で起こっている猟奇事件にはこの怪物が絡んでいるということ――。
 それらはこちら側に来るまで総司も知らなかったことだ。そして、それを狩る者たちが存在することも。
「デニム君、上!!」
 叫んだのは総司の隣にいた怜貴だった。
 ほぼ同時に三人は頭上を見上げる。頭上に浮かぶ蒼い月に影がよぎった。
 鳥にしては大きすぎるそのシルエットが徐々にはっきりとしてくる。
 肉眼でもはっきりと姿を確認できる距離まで降下した時、それが巨大な蝙蝠だと分かった。
 腹の下に人の顔のようなものと上半身が生えている。それが人間部分の名残であることに総司の心が痛んだ。だが今はそんなことなど意味がない。それは考えても仕方のないことだと割り切るしかない。
 蝙蝠は夜空を旋回した後、三人目掛けて急降下しようと闇を切り裂いた。
「射程範囲内だね」
 冷静に呟いたのは霧沙希怜貴だった。
 ブラックコートを纏った小さな体が夜空に舞う。高く。高く。空気を纏うように、切り裂くように空に身を投げ出す。
 コートとネクタイが風になびいた、怜貴の手の平に集まった力に煽られて。
 具現化された魔術媒体のロッドが月明かりに照らし出される。流木をそのまま杖代わりにしたような無骨なものだが、怜貴はその重さを感じさせることなく右手一本でそれを握る。
「ハッハァ!!刃属性魔術ってか!!」
 デニムが笑うと同時、怜貴の長い足が蝙蝠の背を上から下に蹴り落とす。
「すげぇ……怜貴ってこんなに強かったのか」
 思わず総司が呟くとデニムは得意げに笑う。
「当たり前だぜ、総司君。霧沙希は暗殺一家死村と並ぶ名門中の名門。そこのエースが怜貴なんだからよ。戦うことに迷いがなくなったあいつは強いぜ。初期段階の震化体なんかじゃ相手にはならねぇよ」
 迷いがなくなった――その言葉が総司の胸には痛かった。こちら側の世界は足を踏み込んだばかりだが、それがどういう意味なのか総司は十分過ぎるほどに理解していた。
 そんな総司の気持ちと関係なく怜貴の繰り出す攻撃が次々と蝙蝠を切り裂いていく。圧倒的な強さだった。反撃の隙もない。
 元々旧七班は市内最強である士郎答を中心に戦闘力で選ばれたメンバーで構成されていた。市内最強のスレイブである八重柿操。弦術師の速水虎徹。上位ダムドである墓守猫介――。
 それは言わば鈴原冬架が暴走した時に抑えることができるメンバー、そこに組み込まれていた怜貴は総司が思っている以上に強い。
「ごめんね」
 戦いながらも怜貴は儚く優しい声で蝙蝠の震化体に語りかける。
「ボクは君が街の人や総司君を傷つけるのは許すわけにはいかないんだ」
 地に向かって落ちる怜貴と蝙蝠。怜貴のロッドが蝙蝠の頭部目掛けて振り下ろされる。その瞬間、蝙蝠の全身に亀裂が走った。広がる叫び声と黒色の血。
 鈴原冬架が変化と炎の属性を持っているように、怜貴の得意属性は炎と刃の魔術。その刃の斬る力を付加したロッドを空中で振りかぶる。
「世界とかそんなものはどうでもいい。一杯のカレーライスとボクを受け入れてくれた人の為に――」
 ロッドに刃の斬属性を付加した一撃。それは鉱物属性を持った震化体には通じにくいが生物属性には効果が高い。
 怜貴の攻撃で切り裂かれた蝙蝠の体が闇の中で四散した。
 重力に従いそのまま地面に向かい落下する怜貴。
 怜貴は知っている、自分を受け止めてくれるパートナーがいることを――。
「怜貴」
 さっきまでの戸惑いもどこへやら、総司は飛び出す。怜貴と総司の目線が重なった。『信じてる』そんな迷いのない瞳に総司は答える
 舞い落ちる怜貴の体を総司の両手が掴んだ。完璧なタイミングのダイビングキャッチだった。
「馬鹿!無茶するんじゃねぇよ!! 心配するだろう!!」
「うん、ごめん。総司君。フフ、心配してくれたんだね」
 総司に抱きしめられ少しだけ嬉しそうに怜貴は微笑む。
「いつも無茶しやがって」
 それは自分に力がないから――総司はそれを知っている。
 だが――心配する権利はあるはずだ。
「当たり前だろう、お前は――」
「お前は?」
 僅かに怜貴の頬が赤くなった。その心臓が周囲に聞こえそうなほど高鳴っていることに総司は気づいていない。
「友達だからな!!」
 真顔で答え親指を立てる総司。無言でロッドの一撃。
「おい!お前、いて、それ斬る属性が付加されてるから!!」
 怜貴の欲しかった答えとは若干違ったことに、もちろん総司は気づいてなかった。二人を見て笑っていたデニムはちらりと辺りをうかがう。
「やれやれだぜ。さっきの餓鬼は……っと。のびてやがる。捨てて置けばいいか」
 デニムは途中で気絶した犬太をまるでゴミにでも触るかのように大斧の柄で突付いた。人間に虐待されていたデニムとっての人間などそれぐらいの価値しかないのだろう。
「あーあ、くだらねぇ。人間なんてよ」
 そう呟きながら暗がりに立っている総司を見つめる。
「ああ、だが、総司君は別だぜ。ハッハァ!」
 デニムは何故か人間でありながら総司を特別視していた。
 佐東総司の不思議なところは妙な人物たちに好かれることだったりする。その結果貧乏くじは全て総司が頂いてしまうのだけど。
「アンタはぁ、いい奴だし飯も上手いしな。フレンドが惚れるわけも分かるぜぇ」
「デ、デニム君!!」
 少しだけ恥らいながら霧沙希怜貴は声を尖らせた。当然、からかってるだけだと総司は判断した。
「おいおい、俺だってもっと胸があるグラマラスな……」
 再び無言でロッドの一撃が総司に振り下ろされることとなった。
 これにて臨時任務完了――。


 数分後、紆余曲折を経て、本来の目的である総司と怜貴の契約が始まった。



back next

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送