『隣家』


日も暮れた放課後、私は住宅街を歩いていた。
「やぁ、良子ちゃん」
道の向こうの暗がりから誰かが歩いてくる。
蒼い月がその顔を照らす。
それは隣に住む鈴木さんちのお兄さんだった。
確か大学生で法学部所属のエリート。
「あ、こんばんわ」
「ああ、こんばんわ」
お兄さんは私に軽く手を振る。
「暗いのに一人?危ないよ?最近はぶっそうだからね……」
お兄さんが気にしてるのは最近この街で起こってる連続殺人だ。
高校生の男の子が殺されて首を持ち去られるという残酷極まりない事件。
「鈴木さんはどこかにお出かけですか?」
「僕……?」
お兄さんが少し考え込む。
「散歩ってところかな。家まで送ろうか?」
「もうすぐ着くから大丈夫ですよ」
「そっか。気をつけてね」
お兄さんはにっこり微笑む。
それはどこか人を落ち着かせる笑顔だ。
私はお兄さんと別れていった。


朝。朝。朝。日曜の朝。
外がやけに騒がしい。
ああ、朝どころかもうすぐお昼だからか。
私はベッドから起き上がるとパジャマのままキッチンへ向かう。
包丁の音がリズムを刻んでいた。
父さんと弟も皆も席についてる。
「おはよう」
「あら。おはよう」
キッチンで母はこちらを見ずに返事を返す。
いつも通り席に着き、リモコンを手にする。
「あ、母さん。回覧板、隣の鈴木さんのとこだした?」
「まだよ」
「私、後で届けるよ」
私は蝿を手で払いながら言った。
「ああ、出さなくていいわよ」
「え?なんで」
「鈴木さん捕まったから」

テレビのスイッチが入った。

「あ……」
大勢の警察官……。
上着をかぶせられ、連れてかれる隣のお兄さん……。
画面に映っていたのは……。
間違いなく、この近所、隣の家と私の家だった。
お兄さんが高校生連続殺人事件の犯人……?
異常者?
「嘘……」
母の包丁の音だけがトントンと響く。
「嘘……私……」
昨日話したばかりなのに……。
「私……」
私は思わず弟の頭を抱きしめた。
弟は何も言わない。
「残念なことね」
お母さんがお父さんと弟の前にお味噌汁を置く。
「さぁ、できたわよ」
お母さんがお父さんの首にたかる蝿を払いながら言う。
「本当に警察にはしっかりして欲しいわねぇ。皆もそう思うでしょう?」
並んだ首が返事をすることはなかった。

 

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