『我楽多博物館』


本編とあまり関係ない人物紹介

・僕……意気地なし

・君……飲み会のあと、アイスが食べたくなってコンビニによった時にサラリーマンから軟派されホテルに行ったことがある。




『別れの歌』


「あ、雨止んだね」
 ゆっくりとラズベリブルーに染まっていく雲を眺め僕が呟くと、『ああ、そうだね』と君はいつも通りのそっけない返事を返した。
 もうそれぐらいだろうか、突然降り出した雨のせいで動けなくなった君と僕は、いきつけの喫茶店の窓辺の席に座ったまま珈琲の白と黒の混濁をかき混ぜながら他愛のない話を繰り返ししていた。本当は受験のこととか離れてしまうことを話したかったのだけど。僕と君との間にできる僅かな合間を縫って僕が『あのさ』と呟くと君は銀色のティースプーンをその柔らかな唇にくわえたまま子供みたいにうなづく。大人びた顔つきの割にはそういうところが幼くて、僕がそんな君の何気ないところにドキドキしてることなど、当の本人にはきっと数パーセントも伝わってないのだろう。そんな君の何気なさと同じぐらいに、僕が君に話すのは本当にどうでもいいことであって、何でもないことでもあり、ほんの数十分ほど前のことでもある。
 君の隣で人ごみを歩きながら、『どこに行こう』と僕が尋ねれば君はそっとその綺麗な手を伸ばし、
「いつものとこにしようか」
 と、答えて僕のカサカサの手を握ってくれた。そんないつもの、慣れすぎて何でもなくなってしまったことを繰り返しながらビル風が気持ちいいと僕たちは笑った。
 君と手をつないだまま押し寄せてすれ違う人波のスクウェアを抜けた時、同じ道を歩いているはずの僕たちは――離れた。
 君は右へ、僕は左へ、真っ直ぐ進むはずなのに生まれてしまった僕と君の空白の一瞬。ふとつないだ手が離れてできがったアーチを小さな子供が不思議そうな顔してくぐっていく。それだけで僕たちは顔を見合わせ笑い、自然と手をつなぎなおし僕たちはまた歩き出していた。
 だから――僕は君に伝えたい。
「あのさ、きっと進む方向なんて同じじゃなくていい、別々の気持ちだっていい、君がそこにいてくれる、だから僕はここにいる、進む方向や気持ちが同じじゃなくても、僕がたどり着くのは君の傍らなんだと思う、だから僕たちは大丈夫なのです」
 ――そんなことは言えなくて。ダメな彼氏に君は容赦することもなく、『あのさ、何?』なんて尋ねてくるので、不言実行、言葉より心、身を乗り出しての不意打ちのキスで君の唇を塞いだ。ゆっくりと離れるとティースプーンが煌いて君はウルフヘアーを抱えた。
「なんでアンタなんか好きになったんだろ」
 君はため息をつきながらそんなことを呟くけど、それも僕にはなんとなく嬉しかったのでなんとなく君を困らせたくて。
「ほら、理由のないことだってあるじゃないですか?」
 そんなことを口にしたながらテーブルに置かれてた君の手に僕の手を重ねれば、君は少しだけピクンと指先を震わせてゆっくりとその手から力を抜いた。
「あほたれ」
 赤い顔で唇の端を尖らせる君が可愛くて僕は笑うと、君は深く深くため息をついてしまう。
 それだけのことだけど――僕は君に伝えたい。
「僕らは見えない何かで結ばれてつながることができる、そんなことに君が気づいているわけもなく『なんで』、『どうして』、『やっぱりダメ』、『別れよう』をこれからも繰り返すのだろうけど、僕は別々の人に生まれ、考え方も違うことを埋めるために君の手を握る続けるつもりなのです」
 ――なんてことはやっぱり言えなくて。
 もしも――君に伝えることができるなら。
「もしも君が迷っているならば、もしも君が泣くならば、もしも君がずっと僕を好きでいてくれるならば、もしも君が離れてしまうことに怯えているならば――僕は偶然や限りなくゼロに近い確率や奇跡なんて全て鼻で笑い飛ばして、難しいことなんて何も要らないんだと、ただ君に出会えたという必然にひたすら感謝して君の手を握ろうと思ってるわけです」
 ――そんなことなんて当然のこと僕には言えないから。
 不言実行、不意打ちのキスを――。
「大あほたれ」
 一言の後、ふいに君の唇が僕の唇に触れた。
 君に先手の奇襲を受けてしまった僕なのだけど、唇を奪われたままこういう形で繋がってるのもありかななんて思ってしまったわけで――。
 これからどうしようもなく、時間や距離、事情、環境、そういうものによって離れていってしまう僕たちだけど、そんな君とこんな僕はそっと指と指をからめ、掌を握り締め、迷ったり悩んだりどこにでもあるようなことを何度でも一緒に繰り返していければいいと僕は願ってる。
 だから、それだけのことなんだけど、もしも、本当にもしも、今、目の前にいる君に伝えるとするならば――。
「君の側にいたい――」
 僕の発した言葉を君は受け止めて、子供っぽく小さく頷く。
 やっと言えた僕の言葉に君はデコピンで返事を返すのだけど、ちゃんと手を握り締めたまま、長引いた雨宿りから席を立ち、訪れるいつかに僕たちは向かってく――。


いつかはきっと僕ら、蒼すぎた時よりもきっと染まってく。

 

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