『シアン(死安)の風』

 


京都府の女性(17)が、宅配便で届いたシアン化カリウム(青酸カリ)とみられる毒物を飲んで自殺した事件で、送り主とされる福岡市の男性(30)から毒物を購入し、無事が確認された東京都内の主婦が27日、新聞社の取材に応じ、男性の青酸カリ入手について「会社勤めをしていたころに1瓶2000円で買った、と話していた」と語った。この主婦は半年前から男性と交流していたといい、男性の銀行口座に代金を振り込んだほかの6人のうち2人と交流があることも明かした。警視庁捜査一課もすでに主婦から事情聴取をしており、毒物の入手先や送付先の解明を進める。また男性は昨年2月、市内の薬品卸会社で青酸カリ5グラムを660円で購入していたことが、捜査一課などの調べでわかった。



嗚呼、まず何から話せばいいのでしょうか。警察の方々にお話したところでマスコミには全く反映されない憤りと真実を少しでも伝えさせて頂きたいと思います。
名波林さんは私たちの間では林さんと呼ばれていました。
私は、その林さんからシアン化カリウムを受け取った一人です。
大きな語弊があるようですが、林さんはシアンの「販売」していた訳ではなく、保管の委託をしていたのです。私は、林さんのシアンを保管する事を委託された訳で、シアンを譲り受けた時、その適切な保管方法などの説明と共に、
「決してシアンカプセルの蓋を開けてはならないよ」
と、指示されました。そしてその保管委託の契約期限は5年であり、5年後に林さんに返す約束になっていました。
では、なぜ、委託される側が委託する側に委託料を支払うのかと、思われる方もおられるでしょう。その辺りは、林さんの「シアン化カリウムの保管委託」という行為の動機と関わってくると思われます。
私は林さんではないので、ここから先は、林さんからのメールと林さんとの会話から 私が感じた、私の憶測です。
……。
…。
勝手ながら、林さんが私に個人的に伝えられた事を公開させていただきます。いえ、これは警察の方にもお話したことなのです。お話がしたことが一片もマスコミには伝わっていないのです。
まず、林さん自身が、シアン化カリウムを「委託用」ではなく「自分用」に持っておられたのですが、林さんの言葉を借りればそれは一種の「お守り」としてだったようです。
ええ、そのことで警察の方々がどういう表情をしたかは容易に想像できるでしょう。
例えば、街中で肩をぶつけた人とすれ違った瞬間や、大勢の人がいるホームに立つ瞬間、そういう心の隙間に風が吹いて『死のうか』と思う瞬間、それが好きでシアンカプセルを携帯していくのだとおっしゃられておられました。
お守りとしてのシアンカプセルと自殺の為のシアンカプセル。
一見して二律背反、矛盾しているように見えてしまうでしょう。
違うのです、それは矛盾などではないのです。
例えば、林さんは、お一人で海外の治安の悪い危険地帯や紛争やテロの起きているような場所、イラクの僻地などをヒッチハイクで長期間旅行するのがお好きで、そういう時は「シアンカプセル」を携帯して行くのだとおっしゃっておられました。いざという時にはそれを飲んでしまえば良い、という「お守り」を持って、わざと海外の危険な場所に好んで一人で行く。
シアンカプセルは林さんにとってそういう存在なのです。
また、私が「鬱」の時、林さんは、
「鬱の辛さは わかります。あせらないでください」
というようなメールをくださった事があります。だから私は、勝手ながら、林さんご自身、うつ病 の経験をお持ちで、それに伴う「もう消えてしまいたい」という気持ちを持たれた事がある方なのではないか と思っています。この事から、林さんは危険な海外旅行用としてだけでなく、いつ湧き起こるかわからない自殺念慮用としても「お守りを持っておられたのだと思います。それは林さんの言葉を借りれば、あくまでも飲む為にではなく、
「これがあるから、いつでも死ねる。今である必要は無い。だから、もう少し頑張ってみよう」
と、自分に自殺を思いとどまらせる為であったようです。
私が林さんに「青酸カリが欲しい」と頼んで保管委託を受けた時、林さんは「使ったら犯罪だから、ちゃんと保管するよう」私におっしゃいました。でも、飲んで死んでしまえば罰せられようがなく、私は当然、飲むつもりでおりました。
受け取って以来、家出の失敗や 一緒に死ぬ予定であった知人との連絡ミスなど、諸々紆余曲折があったのですが、自殺したいと思わなくなった時期がありました。上手く表現出来ませんが
「これは、喩えればトランプのジョーカーみたいな物。今このカードを出してしまうのは 勿体無い」
というような心境になったのです。シアンを手にして、未練がある事に気づいたのです。シアンに依って未練に気づかされた私は、その旨、林さんに電話しました。死ねなくなってしまった、と。そしたら林さんは、
「だろう?そういうものなんだよ。アレは僕にとっても本当に不思議な『お守り』なんだよ。僕はこれまでに何人かの人に『お守り』を渡したけれど、誰も飲んだりはしていない、だから君にも きっと『お守り』になると思っていたよ。お守りの有効期限は5年、5年後に僕の所に君のお守りが無事に戻って来るのを待っているよ。そしたらまた新しいお守りをあげるからさ、その時は委託料は取らないよ」
というような事を私に話されました。
私はこういう経緯から、林さんの「シアン化カリウムの保管委託」という行為の動機について、林さんは誰もが、飲む事なく、お守りとしてそれを保管する筈と確信して、言い換えれば自殺の衝動から解放される為の手段として幾人かの人にそれを渡していた、と思います。
ただ、前後して、林さんのメールから、それを飲んだかもしれない人 の話を知らされたことがあります。林さんは、その方にシアンカプセルを確かに送ったそうです。その方は亡くなられたそうですが、林さんは、その件について、
『シアンを飲んだ可能性が……ある。 僕は、逃げも隠れもしない、僕の連絡先や名前を、遺族の方に知らせた』
とメールに書かれておりました。
「逃げも隠れもしない」という林さんの出方は、まさか飲んだ筈は無い、誰にとってもあれは お守り である筈、だから その人が亡くなられた原因は他にある筈と確信しておられた為なのか、それとも「保管委託」という形でシアンを渡したのだから、罪に問われる筈は無いとお考えであったのか、それとも罪に問われても、自分の送ったシアンで亡くなられたのならば、罰せられて然るべきとお考えであったのか、林さんにその意図を尋ねることはもう不可能なのですが、とにかく後ろめたさを感じたり、臆している様子は見受けられませんでした。
そんな林さんが、今回、京都府の女性が亡くなられ、御自分も亡くなられてしまった事が、私には残念で悔しくてならないのです。
私が欝で繰り返してきたのは馬鹿で愚かなただの自虐止まりでした。
私自身が死にたいのではなく、私が病気にそう思わされるのです。
林さんはその苦しみを分かっているからこそ、シアン化カリウムの保管委託を引き受けたのでしょう。
私は死のうと思えばいつだって死ぬことはできたのです。
ただ、私には切り札がありました。ジョーカーを最後まで取っておくのは悪いことではないでしょう?
お守りがあるからこそ、うつ病の私は、向精神薬の大量服用やリストカットから逃れることができたのです。
さて、このメールを警察の方が見つけられた時、どうするでしょうか?
ベランダの向こうで、林さんは微笑んでくれています。
あれから五年、カプセルを返すときが来ましたね。
……今、会いに行きます。


追申
トランプのババ抜きではジョーカーを最後まで持っていたら負けでしたね。では。

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