『ル−ト』


この町には本当に何もなくて、僕らの視線の先には、ただずっと歩きなれた商店街が続いてる。
今までも。これからも。
それはデートコースと言うには相応しくないかもしれない。
受験参考書を手にした僕と黙って隣を歩く彼女。
僕のヘッドフォンからはマイナーポップミュージック。
彼女から勧められた曲。
『♪Ah- 狭い部屋で錆びた優しさ分けあった
  Ah- 君となら夢も信じれる気がしたから』
僕たちの関係も恋人同士というにはふさわしくない。
学生服のまま、ただ並んで僕たちは歩く。
空は赤く焼け落ちて、ただただ憧憬。
赤とんぼが向こうの夕日に溶け込んでいく。
「僕たちは一緒にいすぎたかもしれないね」
「そうね。本当に私たちは恋人同士かしら?」
僕が参考書を見ながらつぶやくと、彼女は答える。
「それでも恋人同士だよ」
「そうかしら」
『♪別の道を歩いても
  どこかに君を捜してる
  今も君の欠片を微かに感じて』
「そうだよ、この先はどうか知らないけど」
「そうね。この先は変わるかもしれないわね」
ただ、僕たちは歩く。
「大学どうするの?」
彼女が僅かに僕を見た。
「まだ決めてない」
「そう」
「君は?」
「多分、一緒は無理。貴方のレベルについていけないから」
「そっか」
『♪風は吹き、よろけながらも
 君と見た夢を追いかける
 いつからか、そうすることで
 心をごまかしていた』
「寂しい?」
……答えは彼女が一番分かってると思ってた。
「寂しいよ、君と一緒にいたいから」
僕は参考書を閉じ彼女を見る。
彼女がクスリと笑う。
「そういうこと言ってくれたの初めてね」
「そうかな」
「そうよ」
『♪風は吹き、愛することの
 意味さえ忘れそうなときは
 君には愛、僕には勇気を
 そしてあの日の二人には』
僕たちの町は狭くて、本当に何もなくて。
歩きなれた商店街はそこで終ってた。
「どうするの、この後は?」
「どうなるか分からないけど、まだ僕たちには先があるから」
終わった道の先で彼女の手を握る。
「うん……」
僕たちの町は何もなくて……。
本当に小さいけど……。
僕たちの見つめるその先はどこまでも広がってる。

『♪まだ来ぬ明日をゆっくりと待てる
 そんな優しく流れ行く時を 』


back

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送