ノイズィー・レガート

なんとなく、聞こえてしまう時がある。
ふと気づいた瞬間、隙間と隙間にソッと指を入れて引き裂くような感覚になったその時、ただただ、それらはノイズとして入り込んでくる。
その感覚は、何かを忘れてる気がして不安になる時とひどく似ていた。
繁華街の喧騒の中で囁き、うつろう闇の中で蠢き、風の中に混ざり、高架下を通り過ぎる。
点滅を繰り返す儚い灯火から、電車の通る軋みから、街から溢れるノイズ。
ニット帽を目深に被り直し、ほんの一瞬、瞳を閉じる。
通り過ぎる人ごみの中で僕はノイズを聞く……。
『あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!』
『嫌だ、一人嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!』
『寂しい!!』
『一人は嫌!!』
『嫌!!』
『寂しい!! 寂しい!! 寂しい!! 寂しいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!』
『話して!! 話しかけて!! こっちをミロォオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
『寂しい!!』
『一人は嫌!!』
『嫌!!』
『いやだぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁあ!!!』
ゆっくりと目を開けると、人ごみは変わらず流れていく。
……このノイズはどこに向かうんだろう。
それとも、どこにも行けない想いが集まった場所がこの街なのだろうか。
通り過ぎる人ごみを横目で見ながら、胸元に手をあてた。
繁華街の喧騒の中で囁き、うつろう闇の中で蠢き、風の中に混ざり……そして、僕の心臓が収縮する鼓動に含まれるノイズ。
これは無機質な人の波で溺れかける、僕の心音なのかもしれない。

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