『メロディリピーター』


ただただ儚い夜をやり過ごす為にここにいるのか、行き場所を探してるのか、夜の住人達の間に言葉はない。静まり返ったファミリーレストランに電子機器の稼動音、食器を動かす音だけが響く。
ボクは君を待ちながら、君の好きだった歌を口ずさむ。
途切れ途切れに、君の背中を追うように。
学生服のポケットから取り出した、覚えたての大人に緋を灯す。
紫煙を纏い揺らめくオレンジの灯。
伸ばした足が、テーブルの下の旅行鞄にぶつかった。
この重さは、この街から今夜、逃げ出す弱虫な僕たちの重み。
これから君を背負っていく重みだ。
ウィンドウを染める闇を、一瞬照らしては消えていく淡い光が、走り抜けては深遠の底に消えていく。
君の好きだった途切れ途切れのメロディのリピートを幾度も繰り返す。
君を待つうちに、いつしか時間の流れも紫煙にまみれてしまった。
空っぽになった君の好きなマイルドセヴンをぼんやりと眺める。
これが何杯目の珈琲だなんて数えてなかった。
まばらにいた客達もいなくなり、薄っすらと長い夜が終っていく。
ボクはレジで勘定を済ませると、一度だけ振り返り、ファミリーレストランを出る。
外はすっかり闇が剥がれ落ちて、眩しい光が広がっていた。
まどろんだぬかるみから逃げ出すことを誓った昨日までの僕たち。
踏み出せないまま夜を終えて、またいつもの日常に戻ってしまう臆病な僕たち。
スッと背伸びをしながら、見上げれば蒼。
かざした制服に風を受ければ、遠くの空が明るく見えた。
軽くなってしまった鞄を手にぶらさげて。
隣には君がいないまま。
君が好きだったあのメロディを口ずさみながら。
ボクは、また歩き出す。
制服を脱いだボクに、風は少し冷たかった。



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