『我楽多博物館』


本編とあまり関係ない人物紹介

・兎吊贄仔(うつりにえこ)……生徒会役員。 『ファクトスクラップ(断片収拾)』。チミっ娘。

・出雲八雲(いずもやくも)……悩みがち。『カットデリーション (切断削除)』。眼鏡。




『ジグザグ2』



 燃え尽きるほど鮮やかなオレンジを背景に、私たちはゆっくりと距離を縮め唇を重ねる。
 それはどこにでもいる恋人同士が行う行為。
  教室の片隅で行われるごくごく普通の男女交際。だから私たちは唇を重ねあう、ごくごくナチュラルな行為として。
 柔らかな唇の感触を感じていると、ツルッとした舌先が私の中に入り込んできた。
互いの口内で舌先と舌先を絡めあいながら、私たちはコロコロと転がるそれを舌先で口移しする。
 丸くってプルッとした水晶体。まだちょっと血の匂いと味がする彼からのプレゼント。今朝、殺して抉り取ってきてくれた眼球。
 私、兎吊贄仔(うつりにえこ)はごくごく普通に高校通う殺人鬼だ。最初に誰が呼んだのか、同じ殺人鬼たちからは『ファクトスクラップ(断片収拾)』の二つ名で呼ばれている。
 そして私と同じようにごくごく普通の高校生殺人鬼の彼。
 彼の名前は出雲八雲(いずもやくも)、『カットデリーション (切断削除)』の二つ名で呼ばれる猟奇殺人鬼。この眼球は彼が私にプレゼントしてくれたものでとても気に入っている。本当は加工してアクセサリーにしたいけど、それを業者に頼むのは少しお金がかかるしどうせならペアで揃えたい。
「やっくん……」
 私が彼の名前を呼ぶと彼は少し瞳を潤ませた。その瞳の中に宿った殺人欲求。
きっと私のことを殺したいと思ってくれてる、心の底から。それが嬉しい。私も彼のことを殺したくて仕方がないから。
「やっくん、幸せだよ」
 殺人鬼が殺人鬼の恋人とめぐり合えるなんて――。一体、それはどれぐらいの確率だろう。ずっと私には同じ趣味の恋人なんてできるはずもない、心の通い合う人なんて現れないと思っていた。
 なぜなら殺人鬼は孤独だから。殺人鬼は自分の中の本性を誰にも話すことができないまま生きていかなければならない。殺人鬼の少年と少女がめぐり合えるなんて奇跡なんだと思う。
 人である以上、必ず誰かを求め生きる。その時に隣に誰もいない生き方をしなければならないことがずっと怖かった。でも今は違う。
「絶対、絶対、やっくんのことバラバラにするからね。ぐちゃぐちゃに引き裂いて粉々にすり潰しちゃうんだから」
やっくんは小さく『うん』と笑う。
 こんな私の気持ちを受け止めて喜んでくれる人と出会えたことを私は心の底から感謝したい。
「あ、でも殺しちゃうともう話ができないから寂しくなるね。どうしよっか」
 そんなことが少し恥ずかしくてもじもじしていると、彼は笑いながら私の髪をなでてくれた。『ゆっくり』でいいと笑いながら。
やっくんはそっと私の髪をなでる。
『殺しに行こうか?』と、私はそれに満面の笑みでうなづく。
 今日は誰を殺そう。どんな風に殺して遊ぼうか。コレクションの眼球も増やしたい。彼と色々話そう。ごくごく普通の恋人同士のように。
 燃え尽きるほど鮮やかなオレンジを背景に私たちは手をつなぎ歩き出す。
ごくごく普通の恋人同士のように。

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