『インナー』

 

蝉が鳴いてる。
気だるい暑さ。
夏……。
私はお金の稼ぎ方に味をしめていた。

「はいはい。一枚五千円ね」
校舎裏に私の声が響いた。
私の開いたトランクケースの前に男達が群がる。
馬鹿な奴等。
こんなんに金を払うなんて。
……私が売ってるモノ。
それは私の使用済みのインナーだ。
こんなごみくずみたいなのが私の金になる。
「はいはい!誰も買わないの?」
スッと一人の男子が手を上げた。
どっかおかしいぐらいに色白で気の弱そうな男子……いつも買ってくれる人だ。
一部で小麦粉って呼ばれてる人、確か吉田くんだ。
「五枚……」
「はい、お得意様には一枚サービスね!」
「さっすが金持ち!村山、俺にも」
はやしたてていた他の男子達も一斉に買い出す。
ふーん。金持ちなんだ。
だったらけちんないでもっと買えばいいのに。

…私が稼いだお金が愛になる。
「健二。これ今日稼いだ分なの」
ホテルでSEXした後、私は健二の腕枕から起き上がり財布からお金を出した。
健二……超かっこいい私の彼氏。
「おう。いつも悪いな」
「いいのよ。これぐらい。私、健二を愛してるから」
「由香……」
健二は私を引き寄せキスをしてくれた。
健二……超大好き。

「はぁはぁ……村山さん」
吉田の体が震えた。
陰部にこすりつけていた女性用インナーに熱いスペルマが飛び散る。
快楽の後に訪れるのはいつも虚しさだ。
恋も愛も知らなければ、ただの快楽ですむのに。
胸が震え涙が溢れ、ただやるせなさだけが募る。
手にへばりついた行き場のない精液が冷たくなっていく。
「うう……」
自分が情けなかった。
虚構から惨めな現実へ転落する瞬間だ。。
ティッシュで拭取ると下着とズボンをはき部屋の外に出る。
なんとなく汚れは洗い流さねばならない気がしたからだ。
階下の部屋から父と母の声が響く。
「変なのよ。最近、預金口座からお金が減ってるみたいなの」
「警察に言った方がいいかもしれんな」
「ええ」
吉田は手の平を握り締めた。


「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
私は授業中席を立つとトイレに駆け込む。
女子トイレで吐いた。
なんだろうこの気持ち悪さは。
まさか。
そういえば最近きてない。
まさか!まさか!まさか!まさか!まさか!まさか!まさか!まさか!
……妊娠した?
どうしょう!どうしょう!
健二に捨てられる!!
……おろすしかない。
金だ!金がいる!

「小麦粉。なんか女子がお前呼んでるぞ」
放課後、吉田は教室で帰る準備をしていた。
小麦粉というのはクラス内での彼のあだ名だ。
「ん、ああ」
言われるがままに吉田は廊下へ出る。
「吉田くん。ちょっといい?」
「あ……村山さん。うん」
廊下にいたのは村山だった。
「大事な話があるの。校舎裏までいい?」
「う、うん」
何だろう。大事な話。
心臓がトクンと高鳴ったのは多少の期待があったからだ。
吉田は村山の後をついていった。

人気のない校舎裏で私は吉田くんを見つめる。
「あのさ、私さ……」
「うん」
「お金が欲しいの」
「え……?」
吉田くんの腕をつかんで私の胸にくっつけた。
「やらせてあげるからさ、お金頂戴」
「……村山さん」
「ほら、家はお金持ちなんでしょ?」
「……村山さん」
吉田くんはうつむいた。
「私のこと好きなんでしょ?いつもパンツ買ってくれてたじゃん」
「……んじゃねぇ」
「え?」
「馬鹿にしてんじゃねぇ!!」
彼は私を押し倒した。
蝉の声が遠くなる。
真っ白な世界。
何だろう?一瞬の感覚は。
でもこれでお金が……。
これでお金が。
お金が。

気がつけば全て終わって吉田くんは私を見下ろして泣いてた。
「馬鹿にするなよ!!!!ぼくは……ぼくは……」
ポケットからお札を出し投げ捨てた。
ひらひらとお札は飛び散った精液の中に落ちる。
「ぼくは……!!」
吉田くんが走り去って、夕暮れの中に私は一人残された。
涙が流れる。
蝉の声は消えた。
気だるい暑さはもうない。
白い夏……。
……私は大切な何かを無くしたことに気がついた。

 

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