『エヴァーグリーン』


分けあえる物なんて何もなくて。
あまりにも夜は長すぎて。

ただ、僕達は軋むベッドの上で優しさと寂しさだけを持ち寄った。
貴方は白く、柔らかく、熱く、儚く、弱く。

互いの名前を繰り返しなぞりながら、僕は貴方の細く華奢な体を抱き寄せる。
何も生まない行為だと分かっていても。
行き場のない気持ちだと分かっていても。

求め合う度に、狂おしい程愛しくなる度に。
貴方の薬指のリングが輝いて……遠く、あの日のチャペルの鐘の音が聞こえてる。
願わなければ誰も傷つかないに。
望まなければ何も失わないのに。
それでも、僕は貴方と居たくて……イタクテ、痛くて。
何も言えない僕はただ貴方を抱きしめるだけで……このまま貴方と果ててしまいたかった。

 

僕達は何もない部屋で、白い毛布に包まって体を寄せ合う。
手には先ほど貴方が入れてくれた蒲公英珈琲の入ったマグカップ……。
柔らかな甘みと香りが心地いい。
貴方の細い指先が、ベッド脇のフォトスタンドの前にそっと珈琲カップを置く。
まだほとんど使われてない白いカップ……そう、貴方と義兄が結婚した時に僕が送った物……。
貴方の写真を見つめる穏やかで哀しそうな表情。
きっと写真の中の義兄は、まだ貴方とその薬指のリングの中でまだ生きているのだろう。
僕はゆっくりと蒲公英珈琲を飲む。
蒲公英珈琲の味は傷む胸に優しくて……僕をうつむかせる。
「……姉さん」
貴方を呼ぶ僕の声は震えて響く。
きっと想いのない言葉ならきっと響かない。
でも想いのある言葉でも届かない。
僕たちの心は交わらない。
だから僕は……迷いながら微笑む。
貴方は……姉さんは何も言わず僕の体を抱きしめる。
互いの思う気持ちはきっと傷つけ合ってるだけだろうけど。
蒲公英の綿毛は飛び立てぬまま残り続けるけど。
胸に残る痛みの取り方は分からないけど。
今は姉さんのぬくもりと優しさの中で、このまま溺れてしまいたかった。
リングから聞こえる姉さんと義兄のチャペルの鐘の音。
抱きしめてくれる薬指の冷たさを感じながら……このまま二人、選ばれなかった僕たちの朝を待とう……。


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