『爆弾』

 

僕は学校に行くため駅に向かっていた。
無造作に足元の枯葉を踏みつけた。
その瞬間、その音は空気と混ざり合い何も生まない終りの音となる。
意外と僕はこの感覚の音が好きだ。
個人的に虚空音や虚無音と呼んでいる。
犬杉山駅に着いてプラットホームの時計を確認した。
すでに1時限は終わっている。
のんびりしすぎたか。
電車に乗り学校に行くか刹那的に迷ったが、切符を買う。
数分後、ブレーキ音を響かせロートルな赤い電車がホームに到着した。
さすがにこの時間はあまり人がいないだろうと思っていたが。
ホームにもう一人。
「あ、天音君」
「ああ、鈴木さん」
白線の内側に立っていた鈴木さんがこちらに気づき近づいてくる。
鈴木さんはおさげのどこにでもいそうな女の子だ。
彼女は持っていた茶色い紙袋を足元に置いた。
僕達は到着した電車に乗り込む。
「隣いい?」
「いいよ。あ、荷物……」
僕は置き去りの紙袋を見た。
「あ、いいの、いいの」
彼女は僕の横に座る。
「天音君、遅刻したの?」
「うん。紅葉がきれいだから見とれてた」
「そんなんで遅刻したの?ばかだねー」
「うん。ばか」
満面の笑顔でうなづく。
「君は?」
「私?私は寝坊」
彼女は照れくさそうに笑う。
「天音君、学校好き?」
「あそこに価値はないけど好きだよ」
「私はできればさぼりたいぐらい。なんかね、世界ってあそこだけじゃないみたいな気分になっちゃうんだよね」
「白線の外側……」
「ん?」
「ああ、いや。学校もそれなりに楽しいと思うけど」
彼女は少しうつむく。
「……天音君。変なこと言っていい?」
「何を?」
「……犬杉山駅に爆弾しかけてきたの」
「…随分唐突だね」
「……遠隔式の時限爆弾なの。さっき置いてきた紙袋。最近読んだ本で覚えて……」
「いつ爆ぜるの?」
「駅の時計と連動してて十時に針が動いた時に爆発する……」
僕は腕時計を確認する。
「あと十分だね」
「一緒に駅まで戻ってくれない?今ならまだ間に合うと思うの」
「……断る」
「え?」
「……君は嘘をついてる。例え爆弾だったとしてもはぜはしない」
「なんで……」
「気づかなかったわけじゃないだろ?犬杉山駅の時計はデジタルだよ。とっさの嘘にしちゃよくできてたけどね」
「あ〜あ、騙されるわけないよね」
「どうしてこんなこと言ったのかな?」
「……一緒にサボってもらおうとしただけ」
「それはできないな」
「そういうと思った」
電車は学校前に到着した。
僕はそこで、彼女はそのまま。
お互い手をふり分かれていった。
学校について腕時計を見る。
時間は十時。
彼女の爆弾がはじける予定時刻だった。


ぼんやりとあの頃を思い出していた。
夏の日差しと蝉の声が響く。
「はぁ、なんか懐かしいわ」
僕達は学校を見た後、犬杉山駅にいた。
友香は白線の内側に立つ。
駅は学校と同じであの頃と何も変わっていない。
僕は白線の内側から一歩踏み出す。
「風彦、どうしたの?」
「あ、いや」
僕は内側に戻る。
「白線からでちゃダメでしょが」
「……結局は白線の内側か外側か、か」
「風彦…」
「ん?」
「……ばか?あ、笑ったら殴るよ?」
「うん。ばか」
さすがに笑顔はできない。
白線の中にいることに気づき外側に行ってしまった鈴木さん。
彼女の爆弾は解除されただろうか。
ふと見た先には茶色い紙袋が置かれていたのだった。

 

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