『赤マル』

 

世界ってのを考えたことがある。
俺の世界の中心にはいつも姉貴がいた。
触れれば届く世界の中心に。
俺は触れたことがない。
俺が学校から帰ると姉貴はリビングのソファーで寝てた。
黒いソファーの上でゴロンと仰向けになって。
外からはオレンジの光がリビングに溶け込んでる。
ふと、風邪を引かないように毛布をかけようと思い鞄を置いて姉貴の足元に座る。キャミソールとタイトスカートの薄着のままだ

ったので、
そのせいか薄い唇から吐息が漏れ肉厚な胸が僅かに隆起していたのが妙に艶かしい。
少なからず動揺した。
少女漫画チックに言えばドキリとかいう効果音。
多分、これは暴力的な欲求だ。
ただの性欲に似てる気がする。
姉貴……。
こんな格好で無防備に寝てスカートの中身が見えてる。
湧き上がった唾を一気に飲み込む。
ズボンの中が膨らんでいくのが分かった。
俺はツーっと人差し指で白くて柔らかな太ももをなぞる。
なめらかなシルクの感触と暖かい体温。
その先にある白いレースに向いそっと手を伸ばす。
触れてみたい。
そこが触れれば弾ける世界だとしても。
柔らかな感触の先へ辿り着きたい。
俺のこの手で。
割れても、壊れても。
指先に集中するくぐもった体温が段々高まってくるのと同時に、俺の心臓が激しくロックのビートを打ち鳴らす。俺の荒い息がア

イロンスチームみたいに噴出しそうだった。
そう、パチンと弾ける。そう、触れればパチンと。
全て弾ける。
きっと誰の世界でもそうだ。
薄い膜で覆われた世界だ。
だから弾ける。
シャボン玉のように。
世界は、弾ける。
「……」
俺はスッと手を引く。
「ははは、だっせぇな、おい」
目を瞑ったふりを続けたまま姉貴が笑う。
……案の定、姉貴は起きてやがった。
「起きてたの気づいたから触らなかったのか?」
「別に」
俺を最後に止めたのは結局、姉貴の傍にいたい。それだけだったかもしれない。
「俺が触ってたらどうすんだよ」
「さわらないよ、アンタはさ」
自信たっぷりに姉貴は鼻で笑う。
「なんでわかんだよ、んなこと」
そいつは信頼か?
「へたれだから」
違った。
「ちぇっ」
俺はポケットから赤マルを抜き取ると口に咥え火をつける。
それを姉貴がスッと俺の口から抜き取り咥えた。
「弟だからだよ」
誰にだって世界はある。
姉貴の世界の中心には誰がいるんだろうな。
それが俺じゃないことを祈る。
危ういバランスのこの世界を壊したくないから。
「まじぃ」
姉さんはぺろりと舌を出し、赤マルを俺に返したのだった。

 

end

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