我楽多博物館
『センチm』
○あまり本編に関係ない人物紹介
なし
きっと、どこにでもあるような、ただそれだけのことなんだと思う――。
放課後のオレンジの方が鮮烈なのに、どの太陽よりも一番優しいのは何故だろう。 それだけで、いつも通りの道が少しだけ優しく思えてくる。 放課後の風の方が優しいのに、どの風よりも胸の奥を通り抜けるのは何故だろう。 それだけで、いつも通り一人で『居る』ことが少しだけ寂しく思えてくる。 そんなことで少しだけ胸が痛むのは僕が生きている証なのかな、なんて思うけど――痛みだけが生の実感のはずもなく。 そんなことで少しだけ胸が震えてくるのは僕がここに『居る』証なのかな、なんて思うけど――孤独が存在の証明のはずもなく。 きっとそれは多くの人にとってどうでもいいことでひどく独りよがりなことで、確かなことではないかもしれない。 一つも確かなことは分からないけど、君が目の前に居ることはどうすることも出来なくて――いつものように僕は君の後ろを歩きながら追い越すことができるタイミングを待っている。 君の髪、長いポニーが、子犬のように揺れてるのを眺めながら僕だけが夢を描いているのがひどく醜いことのように思えるからそこには居たくない。 教科書の隅に描いた夢が時間と共に恥ずかしいことに変わってくるような気分は少しだけ自分が惨めになってくるから。 だから、僕は――。 その三十メートル先に並びたいのに――。 その三十メートル先に手を伸ばしたいのに――。 その三十メートル先で君の手を握りたいけど――。 その三十メートル先に僕以外の奴がいて――。 その三十メートル先に走り抜けるだけで――。 その三十メートル先から決して振り向かない――。 その三十メートル先には僕だけが『居て』――。 その三十メートル先のオレンジが眩しくて――。 ふいにシャツが濡れたけど僕にはその理由が分からないし、分かりたくもない。 ただ、オレンジのせいで胸が震えて――。 ただ、夕風が優しくて――。 僕が生きている痛みが、僕が君の先を歩く痛みが、僕の心の震えが、僕を生きてると感じさせてくれる。僕がここに居ると感じさせてくれる。
ただ、それだけのことなんだ、この気持ち。
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