3.


【犬杉山中学校付近林道】
 両翼から展開される攻撃、それをグラスホッパーは両の腕で薙ぎ払う。
風さえ薙ぐ豪腕……。
グラスホッパーに対してある男が言った。
『この男は生まれつき全身のチャクラ……気門が開いている』と。
それすなわち圧倒的な力を意味した。
中国には鍛錬により気を使い破壊力を向上させる武術がある。
それをグラスホッパーは呼吸をするように……あるいは歩くことのように、至極普通に行うことができた。
気配を消す訓練、足音をたてない訓練、
そんなものは必要なかった。
この力で奪えない物は何も……ない。
「砕けろ!」
グラスホッパーの拳が涼を狙い叩きつけられる。
型はない。でたらめな動きだ。
かわすこともできると涼は判断した。ただ……。
スッと飛び跳ね涼がかわしたため、叩きつけられた拳がアスファルトを砕く、砕く、砕く!
音が妙に鈍く辺りに響いた後、
破片が宙を舞い、バラバラと音をたてる。
その拳の跡はまるでクレーターだ。
……一撃が致命傷。
「あ……」
思わず涼の動きが止まる。
和弥と涼を戦慄させるには十分な威力だった。
「つかんだ」
グラスホッパーが涼の刀を握った。
ハッとした次の瞬間、水月に叩き込まれる圧倒的な一撃。
体がその威力で宙に浮く。
「ああああああぐぶ!!!!!!!!!!!」
突き抜ける衝撃。
涼は痛みには慣れていた。
それでも叫び声をあげずにはいられなかった。
「涼さん!!」
和弥の体が回し蹴りで弾き飛ばされる。
めきりと歪む骨の音。
どこか古い日本家屋が軋む音に似ていた。
意識が遠のきアスファルトの上を転がる。
「さぁて、ゲームはここからだ」
【犬杉山中学校付近林道:八千草和弥・皇涼VSグラスホッパー→戦闘中】


【犬杉山市真北中央公園】
 老人は穏やかな瞳で時計を見つめ時を呟く。
「40002……40001……40000」
そう呟いた時、老人はコートから無骨な黒い無線機を取り出し、それを耳にあてた。
『辰巳家特務部隊の諸君。こちらは司令部。マスターキットンである。
現時効をもって『Eプロジェクト』の準備を開始する。目標は犬杉山市内181.64平方km内104905人だ。
エンブレム所有者11名はこの市内に潜伏していることが辰巳財団の調査で判明した。
尚残りの一名は現在追跡中であるがこちらに向かっている可能性が高い』
無線機からワルキュレー騎行が流れる。
『一人殺せば殺人者だが百人殺せば英雄……。
どこの白豚が抜かしたか知らんが、それは大きな間違いである。
我々の行うことは正義を振りかざした虐殺であり、
人を殺せばその時点で悪だ。
しかし、我々にはその覚悟がある。
もう一度言おう、
覚悟がある。
いいじゃないか、諸君。
望んで悪になってやろうじゃないか。
後世の教科書では我らがその悪名を轟かせることだろう。
ガキどもに教師はこういう大人になるなというだろう。
当然だ。
けっこう。おおいにけっこうである。
我々のすることは殺人であり、悪なのだから。
諸君、簡潔に、実に簡潔に言おう。
ジェノサイド(完全抹殺)だ。
抹殺せよ。
男、殺せ。
女、構わん、殺せ。
老人、無論、殺せ。
子供、躊躇するな、殺せ。
犬も、猫も、虫も、何もかも殺せ。
さぁ、諸君。抹殺の準備を始めよう』
……。
声の途切れた後、
老人は膝上のベレー帽子をかぶり直す。
そして、ゆっくり立ち上がった。
子供が老人に手を振る。
老人はそれに微笑み、手を振りかえしたのだった。
時を口ずさみながら。
【犬杉山市真北中央公園:櫃屋稀介→移動】

 

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